2月8日木曜日 18:30

シアターコクーン

 

楽しかった。

 

幕開きは雨の夜。

古いホテルのロビーで、これを改築してオリンピック見物に来る客を迎え入れようという計画などで盛り上がる。

しかし、一足先に出た父親の交通事故死で暗転。

ここでオープニング映像。

二階客席の壁も使って、車が走る、新幹線が走る、その流れる速さが高度成長期に突入する高揚感を醸し出して見ていてワクワクする。

 

明るくなると同じ大道具だが、天井までのガラスの向こうに桜。このまま〈桜の園〉が上演できそう。

先ほどは結婚直前だったカップル、井上芳雄と小池栄子は、夫の浮気がもとですでに離婚。浮気したところが「社用で行ったハワイ」というのも時代だね。

〈トリスを飲んでハワイへ行こう〉キャンペーンが実施されたのが1961年で、海外渡航自由化が1964年だそうな。

 

ここから先は、父親の事業を引き継いでホテル経営に乗り出した小池栄子、再婚相手の生瀬勝久と、

松岡茉優との再婚パーティーをこのホテルですることにした元夫、井上芳雄、

さらに幽霊となって登場して活躍する父、山崎一などが絡んで、最後には、小池栄子と井上芳雄が収まるべきところに収まるまでを描く。

 

ちょっと頭のゆっくりした弟役の瀬戸康史。かわいい顔を存分につかって無垢なヒトという感じを出してうまい。

 

井上と瀬戸兄弟の母親役、犬山イヌコ。

地味で堅実な54歳の母。山西敦に求婚されて戸惑う姿が純情。

黄色いコートのエピソードで嘘をついて、亡くなった夫との間の不和を感じ取らせるのはケラの脚本のうまさでもあるけれど、なんとも良い感じだった。

 

幽霊に付き添って出てくる神様が黄色い光の玉。その声に峯村リエと三宅弘城。

この名前の並びを見るだけで笑えてくる。存分の活躍ぶりだった。

 

3時間を越える芝居だったけれど、まるで長さは感じさせず、暖かい気持ちを抱いて家路につく。

でも、なぜ題名が「陥没」なんだろう?

チラシには〈時代の溝にはまってしまった〉という言葉があるから、オリンピック景気で大儲けできていなさそうなホテルを舞台に、離婚、再婚、借金の返済詐欺、乞食による客室占拠事件など、ちょっとマイナスなものをあつめて陥没した穴のなかで混ぜてみました、といった感じなのかしらん?

こう書いてみると、明るくない素材を寄せ集めて、楽しい舞台に仕立て上げたケラリーノ・サンドロヴィッチの手腕は凄いなと改めて感服。