5月27日金曜日 18:30
シアターコクーン

蜷川幸雄が5月12日に亡くなった。
演出家の名前で見に行って、ひどい舞台を見させられることは絶対にないと思える演出家はこのケラリーノ・サンドロビッチだけになった。今のところ。

自分や親戚の母娘関係を顧みながら、大いに笑える舞台だった。
なんといっても母・浅実れいと長女・秋山菜津子の二人の会話が、題名通り8月の暑さ!蒸し暑いったらない。
中盤で、薬中毒になって老耄の様をみせる母親と大喧嘩になり、長女が「まだわかんないの!今はこの私がしきってんのよ!」と切り込むところが頂点。

ここから長女が家族を支配下に置いて、さらに混迷するのかと思いきや、次女アイビー(常盤貴子)の恋人は従弟だ、と思っていたら父と叔母(犬山イヌコ)の間に出来た腹違いの弟だと判明して流れが変わった。
事実を伝えないと姉弟で結婚してしまうとあせる叔母と長女。
叔母が「あなた伝えてよ」というと
長女が「何でわたしが?」
叔母「だって、さっき私がしきってるって」

こういう展開で、先ほどの熱のこもったせりふが一瞬にして笑いに変化しておかしくてたまらなかった。

ひとりひとり家を出て行き、最後に長女も母を見捨てて出て行くと、母はお手伝いさんのネイティブアメリカンの部屋になだれ込む。
お手伝いさんは何もいわず優しく膝を貸して子守唄らしきものを唄うが、この歌詞が怖い。はっきりと覚えていないが〈死〉に関する内容だったかと。

この芝居は、父親が失踪したと連絡を受けて三人の娘が実家に帰って来るという設定になっているが、警察任せで誰も真剣に父を探していなかったな。

大道具のロッジ風の家の美術は松井るみ。
大勢が一階と二階を行き来しても、全体が見通せる秀逸なつくり。
途中、ダイニングが床ごと動いて中央でゆっくりと回り始める。
テーブルを囲んだ一人一人が客席からきちんと見える上に、やりとりが白熱して煮込み鍋の中のようになっていくようでおもしろい見え方だった。

それにしても浅実れいは素敵だ。
仁左衛門と同じで年齢知っていても、役柄がどんなものでも、なぜかかっこいいという讃嘆の声が出てしまう。
今回の浅実れいは老いさらばえているといっていい役柄でよたよたを足をひきずって歩く場面が多い。
その様な姿でも「老いさらばえてかっこいいな」となってしまう。

秋山菜津子は「長女」といポジションに説得力がある風貌だ。

三女役の女優を知らずに見ていて、スタイル抜群なのでモデル出身の人かと思ったら宝塚の音月桂という人だった。
安い男に血道をあげそうな軽薄なテンションの高さを見せてうまい。

夕食は天ぷら。レディースセットだったので天ぷらそのものが少なくて、ちょっと残念。舌をやけどしてしまったし。