5月12日木曜日 16:30

「 勢獅子音羽花籠(きおいじし おとわのはなかご)」
寺嶋和史(てらじま・かずふみ) *初お目見得
坊やのおかげで先日の昼の部とは違って、ほぼ満員。
菊之助に抱っこされて出てきて、そのまま膝の上。
手締めの後は、顔をあげて1階から3階まで見回しながら手を振っていた。
何とかお役は勤められてめでたしかな。

お獅子の動きがはやくてキレがあって、誰が入ってるのかと思ってみていたら、松也と巳之助。
いいコンビだ。

*かつての三之助の内、孫と一緒に舞台に立てたのは菊五郎だけなんだなと思うと、ちょっと切ないね。

*初お目見得
歌舞伎役者の家に生まれた息子が、本名のまま舞台に登場する事。
今回の様に初お目見得のためにに一幕 作られるか、一本の芝居の中に登場するかはケースバイケース。
だが、代数を重ねた家柄で父親が人気役者だったり、祖父が重鎮だったりするとお目見得が派手になるのは確か。
今回は、父親が人気役者菊之助、二人の祖父が人間国宝の吉右衛門、菊五郎と揃いに揃ったので豪華な一幕になった。

来月6月には市川右近の息子武田タケルも初お目見得で歌舞伎座に登場するが、すでに6歳なので「お安実は安徳帝」というきちんとした役がついての登場となる。


*かつての三之助
新之助(12代目團十郎)、辰之助(3代目松緑)、菊之助(当代7代目菊五郎)がほぼ同年齢。
今の名前を襲名する以前の名前に三人とも「之助」が付くので、三之助と名付けて売り出した。
父の跡を継いだ息子三人も同様に、「平成の三之助」として売り出した。

「三人吉三巴白浪(さんにんきちさ ともえのしらなみ)」
大川端庚申塚の場(おおかわばた こうしんづか のば)

菊之助・松緑・海老蔵揃い踏み。
菊之助のお嬢吉三(おじょう きちさ)はおとせ(尾上右近)から金包みを盗み出すまでが手早く、男の声になって川に突き落とすまで、スッスッスッと運び鮮やか。
杭に片足を乗せて*「月も朧に」と言い出すと空気が軽くなるような雰囲気。

海老蔵、せりふの音程を外さなうように丁寧に言っている感じだが抑揚がまるでない。
父親もうまくはなかったから、このセリフ回しが味になるまで辛抱するしかないのか。

松緑はお坊の扮装が板についてなにより。ちゃんと止め男に見えるもの。

松緑が駆けだしてきて花道七三に、本舞台で菊之助と海老蔵が刀を持って三人同時に決まった時、空間が大きくなって恰好良かった。


*「月も朧に」
この一幕の中、一番の見せどころ、聞きどころ。
Youtube https://www.youtube.com/watch?v=tV7ItFoRQ20 5分45秒のところで菊五郎(菊之助の父)のせりふが聞ける。
「月も朧(おぼろ)に白魚の篝(かがり)も霞む春の空、冷てえ風も微酔(ほろよい)に心持よくうかうかと、浮かれ烏(うかれがらす)のただ一羽塒(ねぐら)へ帰る川端(かわばた)で、棹(さお)の雫(しずく)か濡手で粟、思いがけなく手に入(い)る百両、[御厄(おんやく)払いましょか、厄落し(やくおとし)、という厄払いの声]ほんに今夜は節分か、西の海より川の中、落ちた夜鷹(よたか)は厄落し、豆沢山(まめだくさん)に一文の銭と違って金包み、こいつぁ春から縁起がいいわえ」
(テキストはhttp://www2.ntj.jac.go.jp/unesco/kabuki/jp/5/5_04_18.html のサイトより)


「時今也桔梗旗揚(ときはいま ききょうのはたあげ)」
本能寺馬盥の場/愛宕山連歌の場(ほんのうじ ばだらい のば/あたごやま れんが のば)

本能寺の変を題材とした四代目南北の作品。

これは寝るなと思っていた通り、春永 はるなが(團蔵 だんぞう)が馬盥(ばだらい/馬を洗うのに使う盥。その形をした水盤を花活けに使う)に花を活けたのは誰だと問うているところで寝落ち。
目覚めたら、春永が松緑の光秀に褒美を出しているところだったので、*盥の水を飲む所は見られなかった。

褒美の木箱に入っていたのが*妻の切髪(きりかみ)だと気付いた瞬間から、怒りをこらえるまで、声一つ立てずたっぷりと間を取っていた。
それに引き付けられたので、ここを見逃さなくてよかったと思った。

桔梗(梅枝 ばいし)と二人になってからしらけた空気になることもなく、緊張感を保ったまま花道まで行った。
春永を討つことを決心し、大股で入って行く気迫もすごく、足音もきれがよくおもしろかった。

團菊祭で笑也(えみや)が役を貰っていることに驚いた。

愛宕山連歌の場では、三方(さんぼう、さんぽう)を踏み割る見得で、まっすぐに立った松緑の姿が大きかった。

*盥の水を飲む所
この一幕の見どころ。春永が盥に酒を入れて光秀に振る舞う。光秀は屈辱に耐えてこれをのむ所を見せる。

*妻の切髪(きりかみ)
かつて光秀夫妻が貧苦にあえいでいた時代、客をもてなすため妻が髪を売った。その髪を褒美として出し満座の中で恥をかかせた。
写真は初代中村吉右衛門の光秀。切髪を見つめているところ。

光秀



「男女道成寺(めおとどうじょうじ)」
菊之助、海老蔵が並ぶと華やかだ。

踊りは菊之助の方がうまいのは一目でわかる。
振袖の袂に皺ひとつ作らずきれいに扱えている菊と、無造作な海老。
初お目見えのぼうふら踊りのところでも、海老蔵は手先が動いているだけだったもの。
ここでも扇を翻すときに手しか動いていない。菊は腕からきれいに翻っている。

それでも海老蔵は*正体がばれた瞬間の表情ひとつで舞台を更に明るくする。
毬唄でも、毬をまるめてつく仕草がうまいとは思えないが楽しそうなのでひきつけられる。

二人が鐘の下と上で決まって幕となると実にさっぱりした気持ちになれるから、これからの團菊祭にも期待しよう。

*正体がばれた瞬間
この曲は、幕開きで女二人の踊りかと思わせて、途中で一人が実は男だったとばれて、その後は男女の踊りをみせるという構成になっている。
女姿の鬘から月代のある鬘につけかえて現れるきに「ばれちゃった」というひょうきんな感じで出てくる。


お弁当は三越地下、吉川水産の「昔ながらのちらし寿司」¥1.080。値段相応で味に不満はない。