3月15日火曜日 13:00 新国立小劇場

キャストをすべて替えての再々演。
前回の母親役のコ・スヒが登場した瞬間に与えたインパクトには及ばないものの、今回のナム・ミジョンは小粒でぴりりと辛いといった味わい。
三人の娘の抱えている問題が煮詰まってどうにもならなくなったとき、韓国の神棚を拝みながら「ナンマイダ~」と大声をあげるところは、滑稽さとにっちもさっちもいかない日常がないまぜになって笑いながら泣けてくる。

息子時生の留年になりそうな生活態度を父親が叱る「生きるには戦わなくてはならないのだ」と唯一怒鳴る瞬間、そのまま自殺へと走る
時生を止められない姿は、二度目でわかってはいても力が入って息が詰まる。

最後、飛行機が飛び去る轟音の後、ただひたすらに舞い落ちる桜が悲しくて悲しくて。
大嫌いだったこの町が今は大好きだと、あの世から叫ぶ時生。三人の娘が旅立っていく先に希望があるものの、北朝鮮へ移住する一組の先行きに不穏なものを感じる今、一通りではない終幕の味わいは独特のものだ。

見てただ泣いてりゃいいという内容ではない。
差別と貧困を描きながら、なんとか生活していく活力への希望もあって、舞台から気持ちがいつまでも離れない。


終演後シアタートーク。
作・演出のチョン・ウィシン談。
今回の三部作上演について、最初から三部作を狙ったものではないとのこと。
役者すべてを替えたねらいは年齢的なもの。時生役の若松力も、もう40歳になるし…ということ。
この作品には父の記憶が込められている。氏の実家は姫路城の石垣にあった。そこに家を建て、立ち退きを迫られたとき「ここは買った」と主張していた。それを脚本にいれた。
実家が世界遺産なのは僕だけ、と笑いをとる。

父親役のハ・ソングァン談。
日本人との共演は初めて。この舞台を見たことはないが、噂は耳に入っていた。今回大変なのはホテルでの自炊。

母親役のナム・ミジョン談。
韓国では長幼の序を重んじるので、今回、夫役のハ・ソングァンさんが実年齢が自分より下で、役柄とは逆というのがやりにくかった。
ということは韓国では芝居でも、そんなことはしないということなのか?

父親と長女の静花が劇中一言も言葉を交わさないというのは、そう言われるまで気づかなかった。

チョン・ウィシンが観客の質問に答えて。
美術の坂道は希望を出した。坂の下でのじめじめした土地を現したかった。
最後に解体される家も、最初は難しいと言われたが強く要望して実現した。

司会の中井美穂が最後に、このように心を寄せていける作品に出会えたことを幸せにおもうという様な意味の事を言って締めたが、適切なことばを聞いたなと思った。

↓ロビーに展示されていた焼肉ドラゴンの舞台装置
焼肉