3月14日月曜日 16:30

「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき) 角力場(すもうば)」
あらすじ: 関取の濡髪長五郎(ぬれがみ・ちょうごろう) は恩ある若旦那・与五郎(よごろう)のため、わざと放駒長吉(はなれごま・ちょうきち) との相撲に負け、与五郎の恋人、遊女・吾妻(あづま)を長五郎にとりもとうと画策していた。
しかし放駒はそんな頼みを一蹴して二人はにらみ合いとなる。

双蝶々





↑左:初代中村吉右衛門の放駒長吉、右:5代目中村歌右衛門の濡髪長五郎。
(文化デジタルライブラリー)

与五郎役の菊之助が恋人の遊女に「吾妻~ 」と、一声呼びかけるだけで笑いがおこる。声一つで
*優男(やさおとこ)だとわかる甘い調子の呼び方。

与五郎・吾妻がうっとり見つめ合っているところへ*橘三郎(きつさぶろう)の茶亭金平(ちゃてい・きんぺい)が茶を運んできて<おっと、お邪魔さま>とばかりに引き返していく。こんな場面あったかしら?

茶亭金平が濡髪をほめると、与五郎が次々と褒美を出す。そのふたりのせりふの間(ま)がとてもよくて漫才みたいなおかしさだった。

橋之助の濡髪長五郎の隈取をとった顔が立派。堂々とした姿で構えている。見ただけで関取らしい濡髪だった。

濡髪が菊之助の二役目・放駒長吉に八百長相撲を打ち明けるところ、さっと熱くなって怒りを爆発させ「ふりさらしやがったんじゃ~(わざと負けたんだな)」と叫ぶところに迫力があった。

この幕で見ていて楽しかったのは菊之助。芝居がうまい。

*優男(やさおとこ)
〈つっころばし〉という役柄があり、この与五郎はその典型。ちょっと突くとすぐ転ぶような優男で滑稽味がある。
↓14代目守田勘弥(玉三郎の父)の与五郎。この立ち姿に芯が無い感じがいい。
(文化デジタルライブラリー)


与五郎














*橘三郎(きつさぶろう)
嵐橘三郎。脇役を務める腕の確かな役者。今回の茶亭金平のようにわずかしか出てこなくても、菊之助の役がおもしろくなるかどうかは、この人の腕にかかっている。


「雀右衛門襲名披露口上」
胃潰瘍で休演していた菊五郎が前日から列席。
彼が顔をあげた途端「*梅幸(ばいこう)だ!」と声が出そうになる位、父親そっくりになっていた。

我當(がとう)がかなり大変そうで、彼の後ろに何か黒いものがと思っていたら黒衣だった。少々痛ましいが何とか出演できたのはよかった。

仁左衛門が、先代雀右衛門が皮ジャンにサングラスでハーレーダビッドソンにのっていたと思い出を語る。言われてみれば*息子二人は地味だ。先代にあった地声の低音の魅力もないしな。

東蔵(とうぞう)が「もうちょっと前にでる積極さを」と異例の言葉を発したのも、皆、当代にちょっと歯がゆい思いをしているのだろうな。

新・雀右衛門との*同世代が払底し福助が復帰しない今、一歩控えた場所に立ち位置を決めてはいられないだろう。期待の気持ちでいっぱいになる。

*梅幸(ばいこう)
菊五郎の父。親子なのだから似るのは当然とはいえ、梅幸はスーツ姿だと大企業の重役か、老舗の大旦那に間違われるような品のある風貌だった。息子の菊五郎は、どちらかというとヤクザっぽい粋な雰囲気。年を取って同じ顔になってきた。

*息子二人
大谷友右衛門(おおたに・ともえもん)が兄、雀右衛門が弟。
友右衛門には廣太郎、廣松という歌舞伎役者になった息子が二人いる。

*同世代が払底
雀右衛門は昭和30年生まれで今年61歳になる。
亡くなった18代目勘三郎昭和30年生まれ、10代目三津五郎昭和31年生まれ、病気療養中の9代目福助昭和35年生まれで、
歌舞伎の家に生まれた同世代がほとんどいない状態



「祇園祭礼信仰記 金閣寺」
あらすじ: 足利家に謀反を起こし、金閣寺に立てこもる松永大膳(まつながだいぜん)は、捕らえた雪姫(ゆきひめ)に天井に龍を描くか、自分になびくかと迫る。
龍を描くことを決意した雪姫が龍の手本を見たいと頼むと、大膳は刀を抜き滝つぼに龍の姿を見せる。その刀こそ父を斬った倶利伽羅丸だと気付いた姫は大膳に立ち向かうが逆に縛られてしまう。
桜の木に縛られた雪姫が桜の花びらを集めて足先で描いた鼠が、縄を食いきるという奇跡によって自由の身となる。

緑の*もじ張りが開いて現れた雀右衛門の雪姫は、ほんとうにきれい。だが見終わってみると何か物足りない。
翌日〈焼肉ドラゴン〉で桜が散る場面をみて気づいたのだが、今回の金閣寺には山場が無い。
刀を抜いて龍が現れ、桜が舞い散って鼠が現れと二回も奇跡が起こって見た目に大きな変化があるのに、
そこで気持ちが動かなくて道具の見せ場になっていた。
とにかくこなすにの必死なのだろう。その必死の思いも花道までもたない。
刀をちょっと抜いて髪と襟元を整えると笑いが起きるのはそのせいだろうな。

大膳&雪姫





↑大膳が倶利伽羅丸を抜いて、龍(左上)が現れた瞬間。赤い着物を着ているのが雪姫。
(歌川豊国 早稲田大学演劇博物館所蔵) 


雪姫













↑三代目中村雀右衛門の雪姫が縛られている所。
今まさに縄を食い切ろうとする鼠が着物の袂にいるところがかわいい。
(文化デジタルライブラリーより)

仁左衛門の*東吉(とうきち)。井戸から碁笥を拾い上げるところで、樋をすすっと持ち上げて滝の水を受ける姿の涼しいこと。樋から作り物の水が出る仕掛けがおもしろく、ゆったりとした大きな場面だった。

*もじ張り
金閣寺では、障子に紙ではなく緑の紗を張って、透けて見えるようにした大道具のこと。
これに限らず紗を張った大道具を言う。幽霊の登場などに使われる。

*東吉(とうきち)
木下東吉という登場人物の一人。豊臣秀吉が名乗っていたとされる木下藤吉郎のもじり。
この金閣寺の物語の中では、信長に仕え、大膳を滅ぼすために巧みに取り入っている。


「関三奴(せきさんやっこ)」
あらすじ:関三十郎という役者が初演したことから〈関三〉とついている。
大津絵(江戸時代の大津の土産物)から抜け出した槍を持った奴さんの軽快な踊り。

鴈治郎、松緑、勘九郎三人の踊りなら、見るべきは勘九郎しかいないじゃないかと思っていたら、三者三様でそれぞれにおもしろかった。

鴈治郎は、からだがまるく優しく踊る。
松緑は滑稽な顔を作って、振りにもおかし味がある。
勘九郎の踊りの良さは抜群で、幕切に腰を落として決まった時の爽快さといったらない。
けれど決して一人で踊っているわけではなく、三人でリズムを分け合って踊っているような楽しさがあった。

こんな良いトリオだと思わなかった。

弁当は三越地下、京都御室「佐近」のあなご寿司とおいなりさん¥972 。あなごの味がよかった。又食べたい。