小学校に入学時、用意するものの中に必ずある雑巾。
家庭科の授業でお裁縫を習い始めると
次からは自分で縫った雑巾の持参となる。
雑巾なんだからと、いらない布を用意するのだが
大抵は挨拶代わりにもらう白タオルなどのタオル類の使い古し。
我が家ももれなく古タオルだったが、ちょうど
いらないタオルがないタイミングになると
登場したのが親父の肌着。
ステテコ、サルマタ、白いU襟のシャツなど。
ちょいと伸縮性のある伸びる素材なものだから
針を刺すのにもちょっと難儀で、縫った糸筋を
均すときにもコツがいったものだ。
親父は工事現場で働いてたから、肌着のあちこちに
タールの染みがあり、それを上手い具合に避けて
雑巾分を身繕わねばならない。
そんなこんなで仕上げた雑巾を学校に持参すると
まだ使えそうな可愛いタオルで作った子がいたり
やけに大きな雑巾や小さい雑巾の子がいたりと
個性豊かな様々な雑巾が見れ、皆で見せ合っては笑い
ちょっとした作品発表会みたいになったものだ。
私の一見白いがタオル素材じゃない雑巾に
誰かが気づくと、何?何?と盛り上がり始める。
父親の肌着だと言うと、みな自分の親を思い浮かべ
納得していた。
当時のお父さんはみんな肌着を着ていたからね。
いざ掃除の時間に使ってみると、絞るには伸びるから
思いの外、捻れて絞りやすかったりした。
タオルのように毛羽だちも糸の輪もないもんだから
ゴミや髪の毛や床板のトゲなど、洗うときにサラリと取れ
驚くほど使い安かった。
そんな様子を見たクラスメートたちも、その使い勝手に
同じく感動してくれた。
次回の雑巾には「私もお父さんのシャツにしよう」
なんて子も出てきたぐらいだ。
初めは持っていって見せるのが恥ずかしかった肌着雑巾。
いつの間にか自慢の雑巾に変身していた。
この日、立派な市民権を得たのだ。
以来、親父が天国に行き、肌着が手に入らなくとも
自分の着古したTシャツを自転車やバイク掃除に
使う習慣は今でも抜けない。
さすがに今は雑巾にすることはなく、古タオルを使用しているが
自転車やバイクなどの細かい手入れや油が付くような作業には
タオルや手拭い生地よりも伸びて指先にフィットするTシャツ生地
の方が作業がしやすいのだ。
肌着掃除が未経験の方は一度お試しくださいませ。