今となっては無くてはならない物となった嗜好品の煙草。
多い時では3箱目に差し掛かってしまう程に必要不可欠な物となっていた。
愛用のジッポーで、いつもの名柄の箱から出した一本に火を灯す。
甘さを含むジッポーのオイルの香りと混ざる煙の苦味がとても甘美だ。
肺一杯にそれを送り込み、ゆっくりと紫煙と共に吐き出す。
空の色と溶ける薄灰色の煙を眺めるのもいつもの光景。
ひとり、ゆったりと煙草をふかすのも好きだ。
目線を下げた時に、金色に輝く髪が目の端で捉えた。
じっと様子を見て居ると向こうも視線に気づき、何やら嬉しそうだった。
手招きすると、更に嬉しそうに小走りで此方にやって来た。
「何?珍しい事もあるもんだね。俺に何の用?」
心底嬉しそうな顔を隠しもせず、こいつは側まで近寄って来た。
「用事…って程でもねぇよ。唯…。」
勿体ぶる様に途中で会話を切り、目線は外さず煙草を咥え大きく煙を吸い込む。
吸い込むと同時に目の前の胸倉を掴み上げ、力任せに引き寄せる。
一瞬たりとも目線は外さない。
少しの警戒心も持たず、されるが侭。咄嗟の事に薄く開いた唇を塞ぐ。
驚きに開かれる瞳には、鋭く光る目をした自分が写っていた。
ぴったりと塞いだ口内に優しく煙を吹き込んでやる。
「っ!ゲホッ!ゴホッ、ゴホッ!!」
驚いた瞳が歪んだ瞬間、直ぐに身体を離されたのでそのまま距離を空け、盛大に咽せる姿をニヤける口元をそのままに、眺めた。
「用事って程でもねぇだろ?」
込み上がる笑いを素直に出し、未だ苦しそうに咳き込むあいつをそのままにその場を後にする。
口付けた感触が、まだ残る唇をぺろりと舐める。
「あま…。」
唇を塞いだ時に、ほんのりと甘く感じた。
近づいた時に鼻腔を擽る甘い香りがまだ、鼻先に残っていて何だか落ち着かなかった。
そんな気持ちと一緒に、随分と短くなった煙草を放り、踏み潰した。
唯の気まぐれに過ぎなかったのに。