なぜインドで仏教は亡んだのか? | 釈迦牟尼スーパースター ~仏教のつれづれ~

なぜインドで仏教は亡んだのか?

仏教のような素晴らしい教えを生み出したインドで、
なぜそれがほとんど滅亡しちゃったのか?
これは仏教ファンにとって大きな疑問だ。

教科書的には「イスラム教徒が攻めてきて仏教を滅ぼした」
みたいに言われるのだけれど、どうもコトはそう単純ではないらしい。

そのことを書いていて面白かったのが、
『シリーズ大乗仏教10 大乗仏教のアジア』
第5章「イスラームと大乗仏教」(保坂俊司先生)。

同書によると、
インドで、かつて仏教が盛んだった地域にイスラム教徒が多い。
どうも仏教徒がイスラムに集団改宗するような事態もあったらしい。

インドにおいて仏教は最大の異端宗教=アンチ・ヒンドゥーの役割を
果たす宗教で、その役割がイスラムにとって代わられた、
というのが著者の見立てだ。


このことを、
仏教とイスラムの接点を示すイスラム最古の文献『チャチュ・ナーマ』
(7世紀の西北インドのことが記されている)などをもとに
解き明かしている。

『チャチュ・ナーマ』には、こんな記述が出てくるとか。

・積極的にムスリム軍に協力する仏教僧
 (ヒンドゥー教の王が治める街をイスラム軍が攻撃したとき、
  僧たちは王に意見書を出し「私たちの宗教は殺生はできない」として
  降伏を進言する。
  王が戦争を強行しようとすると、今度はイスラム軍に使者を送り、
  「私たちは王を守るものではないし、あなた方に歯向かわない」
  として、城門を開き、イスラム軍を受け入れた。王は逃走した)

・仏教徒がイスラム教に集団改宗した事例が挙げられている
  (ある街の長老的仏教僧が、寺の中にモスクを建てて
   イスラムの祈りを捧げた)

イスラム側の史料だということを差し引いても、
単に「イスラムが暴力で仏教を滅亡させた」というのとは様相が違う。


で、保坂先生の見立てでは

・その背景には、インド化したイスラムである「スーフィー思想」がある
  (神人合一=「私は神の愛により、神と一体となる」
   「我は真実なり、あるいは我は神なり」)
   インド人もこれなら改宗しやすいでしょう。
   というか、そもそもスーフィズム自体が、ウパニシャッドの梵我一如や
   華厳哲学の影響を受けてるらしい。

あと面白かったのは…
仏教がなんでヒンドゥー濃度の高い密教に変貌したのか、
という疑問に対して、ひとつの要因として
イスラムが攻めてきて一種のナショナリズムみたいな感じで
インドが伝統回帰した、という推測が挙げられている。

他者が来ると、身を守るかのように伝統に回帰したくなるというのは
今の世界や日本を見てもよくあることだし、
そういうこともあったのかなあと思った。


まとめて言うと
「仏教は13世紀初頭のイスラーム軍の攻撃で壊滅したわけではなかったが、
しかし大きな打撃を受け、さらにセーナ朝の保守化政策によって窮地に
立たされ、結果としてインド化したイスラーム、つまりスーフィー思想を
経由してイスラームへの改宗という道を通じて、実質的に消滅していったと
推測されるのである」(同書より)。

詳しくは、保坂先生の単著がある。
『インド仏教はなぜ亡んだのか―イスラム史料からの考察』(北樹出版)



インド仏教はなぜ亡んだのか―イスラム史料からの考察
専門書なのに、タイトルの書体がなぜこんなにファンキーなのだろうか?



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