仏教にはまだまだ新事実が出てくる(「中央アジアの仏教写本」) | 釈迦牟尼スーパースター ~仏教のつれづれ~

仏教にはまだまだ新事実が出てくる(「中央アジアの仏教写本」)

仏教の解説本やお坊さんの話で、「○○です」「○○しました」と表現されることが、実際には「○○した(ということになっている)」「○○です(と信じられている)」

ということは少なくない。

なにせ大昔の話なので真偽不明のことだらけだが、「ということになっている」といちいち付けるのもシラけるので、言い切っておくわけだ。



ところが、考古学的な資料――碑文、遺跡、写本などが出てくると、伝説と全然違うやんけ、という話になったりする。宗教だから真偽不明でいいんだ、という立場もあるだろうが、私は意地が悪いので事実を知りたいクチだ。



『新アジア仏教史05 中央アジア』第3章「中央アジアの仏教写本」(著:松田和信先生)には、たとえばこんなふうに書いてあった。



◆結集伝説

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ブッダの死後にラージャグリハで開かれた弟子の集まり「第一結集」でブッダの法(経)と律、ひいては三蔵が結集されたという伝説でも、あくまで神話学の領域の話で、史実として評価するに値しない

そもそもブッダの死の100年後に記された最古の文字資料であるアショーカ王の碑文の中には仏教に対する多くの言及が見られるが、その中には三蔵に対する言及は認められず、経典の原型が数点成立していた可能性を伺わせる記述が知られるのみである。(125P)

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◆法隆寺伝説

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かつて法隆寺の「般若心経」「仏頂尊勝陀羅尼」は、現存する最古の伝世写本と言われていたが、これは誤りであるといわざるを得ない。

(貝葉に似た葉だがターラ椰子の葉には見えないし、文字も稚拙で専門の書写生が書いたものではない)

小野妹子が将来したなどという伝説があるらしいが、書体から判断して9世紀を遡ることはありえない。インドで書写された写本かどうかという観点からすれば、はっきり言って、これは偽写本である。(P128-129

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この第3章「中央アジアの仏教写本」は、1996年以降、“衝撃的な写本”が次々に発見されたことの興奮が伝わってきて、すごく楽しい。発見のたびに、世界の研究者が「マジ!?」「amazing!」と絶叫したんだろうな。この期に及んで、「未知の仏典」まで出てきてしまうとは、なんてエキサイティングなのでしょう。




釈迦牟尼スーパースター ~仏教のつれづれ~

バーミヤンの石窟。内戦で破壊されたのは酷いことだが、

皮肉にもそこから写本がいっぱい出てきた


釈迦牟尼スーパースター ~仏教のつれづれ~



松田教授が解読した、2~3世紀に書写された賢劫)。ガンダーラ語でカローシューティ文字で書かれている。スコイエンコレクション(たぶんバーミヤン出土?)




以下は同書からの備忘メモ。読んでも面白くないと思います。


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1996年以前

バウアー写本(1890年)、20世紀初頭の英・仏・独・日の探検隊が発見した大量の写本、1930年代初めのキルギット写本・バーミヤン写本など。

その後に、中央アジアから写本が発見されるとは、誰も考えていなかった。



1996年以後

ところが1996年、イギリスの大英図書館がいきなり記者発表をする。

アフガニスタンで発見された「現存する最古の仏教写本(紀元1世紀)」を古美術マーケットから入手したと発表した。世界に衝撃が走る。


ロンドンを中心とする古美術マーケットと写本収集家の情熱に火をつけ、仲介業者が膨大な量の写本を買いあさる(パキスタン、アフガニスタン出土のもの)


ノルウエーの実業家・スコイエンが買い集めた2000点以上の写本を、国際的な研究グループが分析開始(多くはバーミヤーン出土のものらしい)

この章を書いた松田和信先生は、スコイエン・コレクション研究グループの一員。



そういうわけで、1996年以降にそれらを解読するなかで、驚くべき写本がザクザクと出てきているそうだ。スコイエン・コレクション以外も含めて、同書で挙げてある例でいうと




因縁物語つきの「法句経」(漢訳の対応文献なし。大衆部のものと思われる)




相当崩れた俗語による「般若経」

(おそらく3世紀のブラーフミー文字による「八千頌般若経」。

きれいなサンスクリット語の「般若経」に先立って、崩れた俗語の般若経がインドで成立していた直接の証拠。

これが現存最古の大乗仏典かと思ったら、10年後にもっと古い年代の、

カローシュティー文字によるガンダーラ語の般若経まで見つかった)




「無量寿経」の別バージョン(7世紀)

    12世紀以降の漢訳、ネパール写本、チベット語約と全く違うバージョン




「長阿含経」の別バージョン

    今まであったのはパーリ語(南方上座部)、漢訳(法蔵部)だったが、

説一切有部の長阿含が見つかった。これで3バージョンを比較できる



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