お釈迦さま、毘沙門天にお経を教わる(長部32経の「アーターナーティア経」)
今日は阿含経典長部32経の「アーターナーティア経」
(アーターナーターの護経)のメモ。
これは面白いお経で、夜叉(ヤッカ)を追っ払うための護呪、
おまじないのような呪文のようなものなんですね。
(漢訳の長阿含にはない)
アーターナーターとは、空中に造られたヴェッサヴァナ(毘沙門天)の
王宮の一つで、その王宮で作られたお経なんだそうです。
しかも、ヴェッサヴァナが、
「ヤッカを追い払うために、世尊はこの護経を記憶してください」
といって、お釈迦さまに教えちゃうんです。
お釈迦さまは一切知(すべてを知っている)ということになってるのに、
なぜ毘沙門天にお経を教わるのか?という点については、
後世の注釈書に言い訳がましいことが書いてあるらしいです。
ヤッカが来たら、「このヤッカがつきまといます」等と大声で叫んで、
「ヤッカや、大ヤッカ、将軍、大将軍はだれらか。
インダ、ソーマ、ヴァルナと、バーラドゥヴァージャ、パジャーパティ、
チャンダナ、カーマセッタと・・・(以下続く)」と
インドの神様の名前が延々続きます。
人間が住んでいるジャンブディーバ(閻浮提 えんぶだい)の
北方にあるウッタラクル(北俱盧洲 ほっくるしゅう)の描写なんかも面白い。
「楽しいウッタラクル洲」は一種の理想郷で、働かなくても米が実り、
人々は「わたしのもの」という執着を持たずに暮らしている、と。
そして、夜叉と、不思議な鳥がいっぱいいるのです。
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そこにはダラニーという名の湖があり、そこから雲がわき、雨が降る。
そこにはパガラヴァティという名の会堂があり、そこに夜叉が集合する。
そこにはつねに実を付けている樹があり、さまざまな鳥が群れている。
孔雀と鶯の鳴き声と、美しいコーキラー鳥と一緒に、
[ジーヴァ、ジーヴァ(生きよ生きよ)と鳴く]ジーヴァジーヴァカ鳥の声と、
[ウッテチヒッテ(心を立たせよ)と鳴く]オッタヴァチッタカ鳥がそこにいる。
ククッタカ鳥とポッカラサータカ鳥は森に棲み、
オウムと九官鳥と、人面鳥がそこにいる。
クラヴァ蓮池はつねに、あらゆるときに澄みわたる。
(中略)
クヴェーラという名前の大王がいて、夜叉たちを統治している。
クヴェーラ大王には91人の子供がいて、
全員が「インダ」という同じ名前である。
『原始仏典 長部経典3』(春秋社)浪花宣明著
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ジーヴァジーヴァカ鳥に人面鳥って一体何なの?
91人の子供に全員同じ名前って、なんでそんなややこしい設定なの?
と、読む者を当惑させっぱなしの楽しいお経です。
「人はこう生きるべし」的な教訓はヒトコトもありません。
おまじないですからね。
註によると
「現在のスリランカ仏教は<パリッタ仏教>と読んでも大過ないくらいに
護呪が盛んに行われている。スリランカ仏教では原始仏典の中から
29の経文が集生され、parit-potaの名前で一般に広く流布している。
このアーターナーター経の詩偈の部分は、アーターナーティヤ護呪として、
その22番目として集成されている」。
仏教教理の核は合理的だと思いますが、同時に呪術や儀式も行われていて、
やっぱり不可思議だったりオドロオドロしい部分がないと
人は魅力を感じないのかもしれないですね。
そのあたりをミリンダ王に突っ込まれたナーガセーナ長老は
(『ミリンダ王の問い』)、「護呪は医薬と同じだ。
医薬は寿命がある者には効くが、寿命が尽きた者には効かない。
護呪も、(悪から)生じたさわりのない者には効くが、
煩悩のさわりがある者、不信の者には効かない」と反論した、
と註に書いてありました。納得できるようなできないような。
スリランカの田舎では現代でも、病人からヤッカを追い払う
悪魔祓いの儀式が行われている、ということを有名にした本
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