お釈迦さまが、くしゃみをしたとき(『出家とはなにか』) | 釈迦牟尼スーパースター ~仏教のつれづれ~

お釈迦さまが、くしゃみをしたとき(『出家とはなにか』)

三蔵(経蔵・律蔵・論蔵)のうち、ふつう「お経」と思われているのは
教えの中身を書いた経蔵ですが、
実は仏教教団の規則集である「律蔵」がかなり面白そうなんですね。
ですが、律蔵を面白がる物好きな読者が少ないせいか、本も少ないんです。


シロートでも読める律蔵についての希少な本、
『出家とはなにか』(佐々木閑著、大蔵出版)を読みました。
一時品切れだったので読みそこねていたのですが、
奥付をみたら99年に出て4刷。けっこう物好きがいるもんですね。


釈迦牟尼スーパースター ~仏教のつれづれ~

出家とはなにか



お釈迦さま入滅後、教団は分裂を繰り返して、
約20の部派に分かれたとされますが、そのうち6部派の律蔵が残っています
(パーリ律、四分律、五分律、十誦律、根本説一切有部律、摩訶僧祇律)。

この『出家とはなにか』は、パーリ律を解読しています。


以前読んだ抱腹絶倒の『大乗仏教興起時代』(グレゴリー・ショペン著)は
根本説一切有部律を解読していていて、微妙に内容が違います。
http://ameblo.jp/nibbaana/entry-10807107567.html



『出家とはなにか』を読んだ感想をひと言でいうと、やっぱり律って面白い!
出家の作法から、僧団での衣食住、一挙手一投足にいたる細かい規則と、
なぜその規則ができたかというエピソードが書かれているので、
初期仏教教団の人間くさいの姿がありありと目に浮かびます。


この本で印象に残ったのは、
仏教教団がいかに世間に気を使っていたか、ということです。
出家者は生産活動をしないで「乞食(こつじき)」生活を選んだ以上、
一般社会から尊敬され、寄進される存在でいなければ、おマンマの食い上げです。
社会と融和しつつ、教義を守る微妙なバランスで律が作られていったわけです。


「親の許可がなければ出家させない」をはじめ、
世間に後ろ指を刺されないための規則が細々とあります。
親や妻子を泣かせて出家したお釈迦さまがどの口で言ってるのか、
という気もしますが、それはともかく
当時の教団は反社会的でも世捨て人でもなかったわけです


釈迦牟尼スーパースター ~仏教のつれづれ~

今でもタイやスリランカで行われている乞食(こつじき)。

お釈迦さまが特別にこの形式を選んだというより、当時の修行者の一般だった。


たとえば、こんな微笑ましいエピソードも。


==================================

誰かがくしゃみをしたとき、周りの人が「寿あれかし」(jiva)と叫び、
くしゃみをした当人は「長寿したまえ」(ciram jiva)と応える習慣があった。


あるときシャカムニが説法の途中でくしゃみをしたところ
周りの比丘が口々に「寿あれかし」と叫んで説法が中断してしまった。
困ったシャカムニは比丘達に尋ねた。
「なあお前達。くしゃみをしたときに、そう唱えると
 それで人が長生きしたり死んだりするものかね?」
「いいえ、そういうわけではないのですが」
「ならば、人がくしゃみしても『寿あれかし』などと言うな。
 言ったら規律違反とする」
 
ところが他日、比丘たちが在家の人々と一緒にいたとき、
比丘がくしゃみをし、在家の人はいっせいに「寿あれかし」と叫んだ。
比丘が規律を守って何も応えなかったため、
在家信者たちは「礼儀知らずだ」とその比丘を非難した。


これを聞いたシャカムニは、先の規則に例外規定を設ける。
「比丘たちよ。在家の人は吉祥事を好むものだ。
 もし在家人が『寿あれかし』と叫んだら、そのときは
 『長寿したまえ』と応えるようにしなさい


くしゃみの応答は仏教としては意味のない習俗だが、
妥協しても仏教教義にかかわるほどの重大事でない場合、
社会との軋轢を避けるために習俗に従うことを認めるのである。


釈迦牟尼スーパースター ~仏教のつれづれ~ ヘークション!寿あれかし!


==================================


お釈迦さまは、くしゃみの応答なんていう、
小学校の校則より細かいことまで気を使っていたんですね・・。


オウム真理教事件のときに、「宗教ってのは本来、反社会的なもので」
と乱暴に言う論者もいました(私もそう思っていた)。
たしかに、仏教でいえば、欲望を捨てたら消費者・労働者として骨抜き
になるわけだから、社会の生産性を下げる教えではありますね。
ですが一方で、律というストッパーがあったから、
反社会的なカルト集団として暴走することはあり得なかった。
著者の佐々木閑先生は、常々「律なき宗教組織の危険性」に言及されています。


続きは後日。



にほんブログ村 哲学・思想ブログ 仏教へ
にほんブログ村