白毫は毛ではなく腫瘍なの!? (平山郁夫と文化財保護展)
昨日はロクに仕事もせずに、
上野の「平山郁夫と文化財保護」展(東京国立博物館平成館)に行ってきました。
http://www.asahi.com/hirayama/
(3月6日まで)
平山郁夫御大の絵に興味がないのでうっちゃっておいたのですが、
出展されているガンダーラ時代の仏像をやはり見たくなって、
しかも休日は大混雑に違いないので
終了間近の今頃になって行ってきました。平日でも混んでました。
行ってよかったです。
仏像が作られはじめて間もない2~3世紀の、
お釈迦様像の中でもっとも美男子類のレリーフ・仏像は見る価値ありでした。
2~3世紀の仏陀坐像。
まぁ山梨の「平山郁夫シクルロード美術館」に行けば見られるのですが。
それと、あらたなる発見もありました。
◆白毫は毛ではなく良性腫瘍である!?
「仏陀の三十二相」といって、仏の身体的特徴というか図像が定められている中に、
「白毫」つまり眉間のあいだのポチッとした突起があります。
一般にあれは、眉間のあいだに生えた白く長い毛の渦とされています。
ですが、図録を買わずにセコく見本を立ち読みしていたら、
気になる記述がありました。
立ち読みなので言葉尻は不正確ですが、こう図録の説明に書いてあったのです。
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白毫はインド発生で毛であると仏典にあるが、それは間違いである。
本当は良性腫瘍であって、イラン族の間で、
神が与えた正当なる権力の証であるとされた。
仏像制作の際に、
それを、転輪聖王に匹敵するとされた仏陀に転用したものである
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えっ! 白毫って「腫瘍」なの?
この項を書いたのは、中央大学教授の田辺勝美という先生。
あとで調べたら、「仏像の起源」などを研究している仏教美術の先生でした。
ガンダーラ美術が「ギリシャとインドの文化交流で」云々は高校生でも知ってますが、
そこにイラン(ペルシャ)文化が激しくブレンドされて初めて仏像が誕生した、
というのが田辺教授の説らしいのです。
白毫=イラン起源説も1985年の専門誌『佛教美術』(毎日新聞社)に
田辺教授が書いていて、今も図録に書いてるということは
学界でオフィシャライズされた説なのでしょうか?
考えてみればイラン文化の影響は当然で、
仏像が誕生したのはお釈迦さま入滅後、500年ぐらいたった北インド。
当時は「クシャーン朝」、つまりイラン系遊牧民が北から進出して
建てた王朝のもとで、ガンダーラ地方の仏像制作がはじまったわけです。
今回出展されていたレリーフの中でも、
お釈迦様の横に、レリーフを寄進した金持ちの像が刻まれていて、
それが明らかにイラン系遊牧民の格好をしているものもありました。
彼らは北インドから絹やら香料やらをローマに輸出して、大変な金持ちで、
もとはゾロアスター教徒だったのが仏教に改宗して、盛んに寄進をしたわけです。
大乗仏教も、彼らイラン系民族に支持されて、盛り上がったきたとされています。
田辺勝美教授の著書を探したら、『仏像の起源に学ぶ性と死』(柳原出版、2006年)という本が相当に面白そう。ですが1万6800円という泣ける価格でした・・・。
<アマゾンの紹介コピペ>
豊富な遺物・文献に基づき、研究成果の集大成として、新しい“仏像の起源”を提示する。図版満載。
“仏像の起源”や“ガンダーラ美術の起源”の研究は仏教経典やガンダーラの歴史を中心に考察されてきた。そのため曖昧模糊とした仏像の起源論にとどまっているのが現状である。
著者は人間存在における仏像起源の真相にせまるべく、仏像の背後に蠢く仏教徒の本心や浅薄な人間の欲求、際限のない欲望などを視野に入れながら、日本をはじめとする関連地域の資料・遺物を丁寧に分析し、その核心を究明した。21世紀に相応しい仏像の起源論である。
◆金剛力士像の起源はヘラクレス
これは有名な話ですが。
出展されていた中に、「執金剛神またはヘラクレス頭部」(クシャン朝、2~3世紀)
というのがありました。どう見たってギリシャ彫刻です。
また、お釈迦さまの横に、ボディガードとして執金剛神がいるレリーフもありました。
執金剛神(サンスクリット語で「ヴァルジャパーニ」)は、
ガンダーラ美術では釈尊のボディガードとして至るところに登場するのに、
それ以外の仏教美術や仏典には全然登場しないそうです。
(文献では「根本説一切有部律」だけに登場する)。
右がヘラクレス=執金剛神。これは今回の出展でなく大英博物館蔵
この執金剛神のモデルはヘラクレスだというのです。
ガンダーラにいたギリシア人の仏師が取り入れた図像なのでしょうね。
これが、金剛力士像の起源だというから、
東大寺南大門のあれは、ヘラクレスの発展形というわけですね。

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