お釈迦さまの人間味に惚れる(阿含経その7)「歌舞伎聚落主」 | 釈迦牟尼スーパースター ~仏教のつれづれ~

お釈迦さまの人間味に惚れる(阿含経その7)「歌舞伎聚落主」

『阿含経典』増谷文雄訳、第3巻を読みはじめました。

第三巻は、「人間の感覚=六処=に関する経典群」55経が
収められています。
うち一番重要なのは「六処相応」33経なのですが、
これは人間の感覚(眼・耳・鼻・舌・身・意)について
これでもかというぐらい繰り返し繰り返し説いています。


むしろ読んでいて面白いのは、それ以外のお経です。
たとえば「聚落主相応」。
「聚落主=村長」に対する説法を記した4経です。


なかでもビンビンと身につまされたのが「歌舞伎聚落主」。
歌ったり踊ったりする歌舞伎の仕事、
今でいうエンターテイメント産業の人が集まって住む村の
村長「タラプタ」さんが、お釈迦さまのところにやってきます。
(当時、同じ職業の人が住む職業氏族村が出来始めていた)。


釈迦牟尼スーパースター ~仏教のつれづれ~ 歌舞伎聚楽の例。


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傍らに座したタラプタなる歌舞伎村の長は、世尊に申し上げた。
「大徳よ、わたしは昔から代々の師たる歌舞伎者の大事な口伝として
こう聞いております。
すなわち、<およそ歌舞伎役者たるものは、舞台や野外劇場において、
真実をまねて、人々を笑わし楽しませるものであって、
身壊れ、命終わりて後は、喜笑天(笑い喜ぶ神々の世界)に生を受ける
であろう
>と。
これについて、世尊は、なんと仰せられましょうか」


(世尊は答えて)
もうよい、村の長よ、やめなさい。
わたしにそんな事を問うてはいけない
」。

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このタラプタさんの気持ちが、すごくわかるのですよ。
わたくし、いちおう本や雑誌を作る仕事に就いていますが、
この仕事はまさしく歌舞伎者。
メディアの使命はジャーナリズムだと世間は思っているかもしれませんが、
あれはエンターテイメント産業です。
真実をまねて、人々を楽しませる仕事です。テレビも新聞も出版も歌舞伎者。


必ずしも、お金のためだけじゃないのです。
実際に、正義感よりセンセーショナリズムのほうが世の中を動かしたり、
芸術ぶるより商業主義のほうが素晴らしい作品を生んだりすることは
歴史が証明ずみ。
だから、世間からいかに「マスゴミ」とか非難されようとも、
「シロートは何もわかってないよね」というのが本心。
プロの歌舞伎者の矜持、「いつか喜笑天にいける」という思いがあるのです。


でも一方で、ウンザリしてもいるのです。
どうでもいいスキャンダルを暴いたり、「今夏の流行服はコレ」と煽ったり、
「正しいか」でなく「売れるか」だけが語られる毎日に。
ウチらまともな死に方しないよね、という怖れもあるわけです。


歌舞伎村のタラプタさんも、そんなアンビバレンツな思いがあるから、
お釈迦さまのところに行ったんだと思います。


それに対する、お釈迦さまの答えが
「もうよい、村の長よ、やめなさい。
わたしにそんな事を問うてはいけない」。

なぜお釈迦さまは答えを拒否したのでしょう?

タラプタさんは尚も食い下がり、同じ質問を3回します。
お釈迦さまは、仕方なく、こう答えます。

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村の長よ、むかし人々は、貪欲を離れず、貪欲のきずなに繋がれていた。
それなのに、役者たちは、舞台やら野外の劇場において、
欲の深い場面を演じたので、彼らはいよいよ欲深になってしまった。
(中略)
かかる者は、みずから陶酔し、みずから放逸にして、
また他をして陶酔せしめ、放逸ならしめるのであって

身壊れ、命終わりて後は、<喜笑>と名づくる地獄にありて、
そこで生を受けるであろう。
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そして、「歌舞伎者のプロの矜持」は、「間違った考えである」と
お釈迦さまは言います。
間違った考えをいだく者には、2つの道がある、
「それは地獄への道か、畜生の道かである」と。
これを聞いたタラプタさんは大ショック。


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そのように世尊が仰せられたとき、
タラプタなる歌舞伎村の長は、声をあげて泣き、涙をながした。
(釈尊いわく)
「だから、わたしは<もうよい、村の長よ、やめなさい。
わたしにそんな事を問うてはいけない>といって、
汝の問うことを許さなかったのである」。
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村長に男泣きされて、オロオロするお釈迦さまの姿が見えるようです。
釈迦牟尼スーパースター ~仏教のつれづれ~ お釈迦さま~~~ドキドキ

このお経を読んで思ったこと。


1.ウチらは、やっぱりまともな死に方をしない。

2・ ますます、お釈迦さまに惚れ直した。


結果的に社会を悪くする仕事であっても、
それで必死に食って家族を養っている人に対して、
「お前は悪だ」とエラそうに断罪はしないのです。
「オレに言わせないでよ・・」と躊躇する
お釈迦さまの人間味に、惚れ直したぜ。



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