しとしとと、冷たい雨が降る冬の午後

わたしの実家へと向かう車内には、不穏な空気が漂っていた

「そういえば、ちひろのお父さんは公務員だったよね。具体的には、どんな仕事をしているの?」

悩みに悩んだというグレーのスーツ姿を着た彼が、緊張気味に口を開いた

「えっと、その」

運転中の彼を驚かせたくはないけれど、言わないわけにはいかない…よね

「もしかして、学校の先生とか?」

「いえ、なんていうか…ケイサツカンなんです」

「!?」

信号が黄色から赤に変わる直前、車は急ブレーキ気味に停車した

「なんでそれ、早く言わないの!?」

「警察官だって公務員です。嘘はついてませんよ、わたし」

「…俺、逮捕されたりしない?」

「なにか、やましいことでもあるんですか?」

「あるような、ないような」

「はい?」

「だってほら、いろいろと…」

顔面蒼白になった彼のつぶやきに、わたしは思わず吹き出した

ミステリー作家という職業や、紗良ちゃんの存在を気にしているに違いないけど

「心配いりません、わたしは昔から父に信用されてますから。むしろ、問題なのは母の方」

「どういうこと?」

「電話で狂喜乱舞してました。ファンなんですって、水上あまね先生の」

「えっ!?」

「持ってる本にサインしてもらうんだって張り切ってたけど…ダメですか?」

「ダメなわけないだろ!ただ、それはそれで恥ずかしいな」

「ふふっ」

信号が青に変わる

彼は小さく息を吐き、ハンドルを握り直してアクセルペダルを踏み込んだ

「あの家?」

前の車が右に曲がると、実家の塀が見えてきた

「そうです、青い屋根の家」

車はゆっくり、庭先の駐車スペースへと滑り込む

「次は紗良ちゃんも連れて来ましょうね」

シートベルトを外して運転席を振り向くと、彼の唇がわたしの頬に優しく触れた

「大好きだよ」

「…知ってます」

「冷たいな。そこは大好きって言ってよ、ちひろちゃん」

「その呼び方、両親の前ではやめてください。あと、変に取り繕ったりも。そのままのあまねさんで大丈夫ですから」

「嘘つきで、泣き虫な男でもいいの?」

「もちろんです」
 
車を降りると

「わあ、きれい…」

雨上がりの青空に

大きな虹がきらめいていた




終わり



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