フロントガラスの向こうに、のどかな住宅街が少しずつ近づいてくる
ハンドルを握る周は、さっきからやけに口数が少なかった
「どうかしたんですか?あまねさん」
「ねえ、ちひろ」
「はい?」
「なんで早く言ってくれなかったの?」
「なにをですか?」
「お父さん」
彼は信号で車を止めると、深いため息をついた
「公務員だって、言ったよね?」
「言いました」
「普通の公務員だと思うじゃない」
「警察官だって普通の公務員ですよ」
「普通じゃないだろ、警察官は」
わたしは思わず吹きだしてしまう
「うちのお父さん、趣味は家庭菜園だし、お母さんには頭が上がらないし…ほんとに普通の人ですってば」
「俺、逮捕されたりしない?」
「なにかやましいことでもあるんですか?」
「あるような、ないような…」
くすくす笑うわたしにつられて、彼も肩の力が抜けたように少し微笑む
「でもさ、職業は不安定だし子どももいるし…お父さんにしてみたら簡単に認めたくない男だろ?」
その言葉には、冗談では隠せない不安が滲んでいた
「あまねさん」
「うん?」
「信号、変わりましたよ。ちゃんと前を向いて運転してください」
「あ、ごめん」
素直に前を向く彼がおかしくて、わたしはまたふっと笑った
「心配いりません。わたし、お父さんに信用がありますから」
「信用?」
「小さい頃から、お父さんはわたしの話をちゃんと聞いてくれる人なんです」
少し照れくさそうに笑って続ける
「だから最初は驚いても、ちゃんとあまねさんの事情はわかってくれます」
「そうかな」
「そうです」
迷いのない返事だった
「あまねさんがどれだけ紗良ちゃんを大事に育ててきたかも、お仕事を一生懸命頑張ってることも」
周は思わず苦笑する
「言葉に詰まったら、助けてくれる?」
「もちろんです」
胸を張るちひろに、思わず笑みがこぼれた
「でも、ひとつだけお願いがあります」
「なに?」
「変に取り繕わないでください」
「え?」
「いつものあまねさんでいて欲しいんです」
ちひろは照れながら、小さく彼の袖をつまむ
「ありがとう、ちひろ」
その一言が、胸の奥にすっと染み込む
「覚悟は決まりました?」
「いや」
彼は苦笑しながら答えた
「まだ怖い。でも、ちひろが隣にいるなら頑張れる」
その言葉に、ちひろは嬉しそうに微笑んだ
「それなら大丈夫です」
二人を乗せた車は、青い屋根の一軒家へと静かに近づいていった