「紗良ちゃんは関係ありません」

「じゃあ、どうして?」

「どうして、って…マンションを引き払ってしまったら、帰る場所が無くなってしまうじゃないですか」

彼は眉間にシワを寄せ、露骨に嫌な顔をする

「だから、ここで一緒に暮らそうって…」

少し日焼けした腕が、躊躇いがちにわたしの肩を抱く 

「そうじゃなくて…もしもあまねさんに振られたら、わたしには住む場所が無くなるって言ってるんです」

このまま流されてしまうとダメだと思い、本音をこぼすと

「こういう言い方したくないけど…」

ため息混じりの声がして、大きな手がわたしの髪を優しく撫でた

「相変わらずネガティブっていうか、心配性っていうか…なんで俺がちひろを振るんだよ?」

「それは…ハルくんだけじゃなく、高校時代につきあってた人にも捨てられたから。いつも相手から告白されるのに結局は振られちゃうんです、わたし」

飽きられやすい女だってことは自覚してる

「えっ…」

「あまねさんに嫌われないって保証は、どこにもないでしょう?」

「はあ」

深いため息が聞こえて、髪を撫でていた指先が止まる

さすがに怒らせてしまったかもしれない

怖くなって「ごめんなさい」と言いかけた時

「春翔以外にも恋人がいたって初耳なんだけど?」

耳朶を甘噛みするようにして彼がささやいた

「高校生のわたしに恋人がいちゃ、いけませんか?」

濡れた唇が首から胸元へと這わされていく

「いけなくはないけど。その彼氏とは、どこまでいったの?」

「なんで、そんなこと…あっ!」

熱を帯び始めた身体が、また抱え上げられ宙に浮く

「ちひろのこと、もっと知りたいからに決まってるだろ」

昨日と同じベッドに降ろされ、あちこちに甘いキスが降り注ぐ

「あっ、ん!」

「初恋はいつ?どんな人?」

「言いたくありません」

「じゃあ、ファーストキスは?どこで誰としたの」

本気なのか冗談なのか良くわからない尋問は

「…っく」

愛撫が激しさを増していくにつれ、低い喘ぎ声へと変わっていった

長い時間をかけ、お互いの熱に溺れた後

意識が遠のいていく耳元で、寂しげな声が聞こえた気がした

「ちひろは三日月と満月、どっちが好き?」