気持ち良いリズムが聞こえて来る。
ポン。
ポン。
ポポン。
不思議な打楽器のリズムは、私の夢路を護ってくれているみたいで、浮上する意識を感じつつ、私は微笑みの表情を作り出していた。
 
「ん…ふふっ。楽しい気持ちで目覚めました」
 
ふんわりと意識と心同時に浮上して起きる事は滅多に無い事で、その目覚めの幸福な効果は、自分が作り出している表情で知る事が出来た。
 
_____今なら、良い曲が沢山作れる気がする。
 
くすくすと、一人で微笑んでいると、上から花びらが降って来た。
 
「え?」
 
寝起きでも、頭がすっきりとしていた為に、素早く周囲を確認すると、この状態になるまでの記憶が蘇ってくる。
朝から訪ねて来てくれた光男くんに沢山の料理を作って、毎度の如く気持ちの良く食べてくれる姿に嬉しくなって、冷蔵庫だけでなく、保存していた乾物にまで手を出して、作った後…。
アイドル研究の為に、テレビに魅入っていた光男くんの姿を横に座って見ていたら、伸ばされた手が優しく頭を撫でくれて、その感触が気持ち良くて、自分は逞しい肩に頭を乗せて、ソファーで意識を手放していたのだった。
 
簡単な料理でも、数を重ねれば、疲れてしまう。
でも、光男くんの嬉しそうな顔と、
『良い味だな』
その一言で、肉体は疲れても、私の心は毎回ふんわりとした温もりで溢れて満たされていた。
  
でも…。
その記憶と、周囲の景色が正しいのなら…。
室内で花が舞うなんて…有り得ない事。
 
「えっと?」
 
もう一度、疑問の言葉を口にすると、私を幸福に導く温もりが、また頭を優しく撫で始めた。
 
「光男くん?」
「気に入ったのか?」
「はいっ。魔法使いみたいです」
「あんたには、旨い飯を食わせてもらってるからな」
「えっと…」
「礼だ」
「ありがとうございます」
 
光男くんは、器用に片手で私の頭を撫でながら、逆の手で鮮やかな花びらを部屋に撒き始めた。
私が同じ事をしても、こんなに広範囲に、本当に風が花びらを操っている様な感じで撒く事は出来ないと、両手を胸の前で組みながら、深い笑みを作り出す。
 
光男くんは自分の行動で、相手が高評価をくれるかと期待をして作為的な事はしない。
自分も楽しくて、相手が微笑んでくれる事を、自然に選択出来る凄い人。
将来、学園を作って、世界中の人達に愛を配れるアイドルになるのだから、当たり前のかもしれなけれど、私の頭を撫でてくれている光男くんの年齢で、この行動が出来るのは…凄いの一言でしかない。
 
「光男くん。私、幸せです」
「そうか?あんたが幸せなら、俺も幸せだ」
「…上手いです」
「ん?あんたの作る飯か?」
「くすくす。違います。光男くんの愛情表現です」
「そりゃ決まってる。あんたが好きで好きで仕方がないからな」
「…私もです」
 
この時間がいつまで続くか分からない。
でも、私の頭を撫でてくれている今は、誰にも奪う事が出来ない。
我儘を言えるのなら、離れたくない、思い出して欲しくないと叫んでしまいそうになるけれど…その時間すら、勿体無いと、思える様になった。
 
それは…光男くんの眩しい程に輝く行動が、私に教えてくれた。
 
「光男くん。お昼も一緒に食べましょうね」
「勿論」
 
ずっと先の約束は、心に。
ほんの少し。
数時間先の約束を糧に、私は二人の時間を紡いでいく…。