3章
 
「…春歌…今…なんて?」
「えっと…赤ちゃんが出来ました」
「凄いね。素敵な報告だね」
「でも」
「しーっ。次の言葉は、言ったら駄目だよ」
 
仕事を最速で終わらせてきたレンは、朝と同じ様に抱えて膝上に乗せた愛しい春歌から、思ってもいなかった報告を受けて、数回瞬きをした。
その後、いつも軽く弾む様な会話をするレンの真面目な表情を見た春歌は…少し眉を下げて、自分の報告が予想していた通り、迷惑な事になってしまったのかもしれないと悲しみを表面に出す。
 
春歌は、レンから受けた愛情が、形になった事が嬉しくて、結果が分かった時には、喜びの思いのままに祖母に電話をしていた。
ただ…祖母と会話を続けていくと…次第に、自分とは同じ感覚でレンが受け止めてくれるかが不安になり、帰宅した体に飛び込んで表情を隠す事で誤魔化すしか出来なくなっていた。
 
その春歌の不安を、レンが気付かない筈も無く…。
『ダーリンに…迷惑に』
春歌が次の言葉を紡ごうとした唇は、長い指で塞がれる。
 
「んっ」
「俺はね。子供が欲しかったんだ」
「んんっ」
「そうは見えないかい?」
「…」
「春歌は良いママになるだろうね。勿論子供は女の子で、オレの格好良さと、春歌の可愛さ優しさが揃った良い子になる」
「ダーリン…」
「ありがとう。最高のプレゼントだ」
「…はい…はいっっ」
 
そっと。
お腹に負担が掛からない様に、レンは春歌を抱き締め、愛の言葉を言い続けた。
 
 
それからのレンは、仕事の幅が増加していく。
周囲に子供の事は隠してはいても、父親になると言う出来事は、レンの中に新たな支えが出来た事らしく、全てを真面目な姿で向かう様になり、新たなファン層まで増加する効果を生み出す。
 
朝から晩まで、ギッチリと仕事が詰まった状態に、春歌は日々心配の言葉をレンに告げてはいても、新しい存在は新しい力になるらしく、レンは前だけを向いて走り続けた。
 
 
今朝も…。
 
「ダーリン」
「大丈夫だよ」
「心配で」
「んー。なら、美味しい料理を作って待っていてくれるかい?」
「はいっ」
「あっ。買い物は、昨日しておいたから」
「えっ」
「それじゃ。行って来るよ」
「あのっ…行ってらっしゃい」
 
チュッ。
見送りのキスをした春歌は、自分の気付かないうちに、冷蔵庫が満タンになっているのかもしれないと、去り行くレンの背中を見送りながら、熱が上昇し続ける頬に手を当てた。
旦那様の過保護は、結婚前からあったとしても、最近は更に手厚くなっていた。
 
仕事の時は、真剣に思いをぶつけ合うとしても、オフに切り替えてしまえば、それは蜂蜜の様に甘く愛を与え続ける。
 
春歌は、そっと手をお腹に当てて
『パパは、凄い人ですね』
癖になっている会話を微笑みつつ零した。