「…真斗君っ」
機嫌が良さそうだ。
リビングのソファーに座って、台本に目を通していると、背中の方から、弾む声が聞こえてくる。
「どうした?」
「おやつしませんか?」
「ああ。もうそんな時間か」
「はいっ。真斗君はお仕事頑張り過ぎです」
「?そうだろうか…台本を読んでいただけだぞ?」
「でも、お仕事ですっ」
台本を机に置き、振り返れば、食卓にトレイを置いた彼女が、腰に手を当てて
『怒ってる』
仕草で表していた。
____可愛い。
本人は、本気で怒っているのだろう。
それでも、俺には
『可愛い仕草』
+のモノにしか見えない。
「ハル」
「はい?」
「お前は、可愛いな」
「…っ。もうっ」
「どうかしたか?」
「何でもないですっ」
ぷぅ。
頬を膨らましている彼女に、近付き、その頬に軽く指を当てて溜め込まれた息を吐き出させながら、
そっと抱きしめた。
「ハル。俺は幸せだ」
「?真斗君?」
「お前の存在が、どれだけ俺を救っているか」
「…私もです。真斗君が私の傍に居てくれる。それだけで、頑張れますっ」
甘い返事を返しつつ、微笑む姿。
この世の全てと比べるまでもなく美しく惹かれるモノ。
両頬に手を当て、顔をそっと引き上げると、キスを贈る。
「真斗君っ。あのっ…これ…」
「…猫…だな」
「はいっ」
「真斗君が毎日忙しそうなので…可愛いモノを選んでみましたっ」
「ありがとう」
「いえっ」
俺のすべてを包み込む、癒しの存在。
他の者には渡せない…離せない。
もう一度、休憩の前に、癒しの時間と…彼女を強く抱きしめた。