「この時を」(真斗x春歌)
 
「ん…っ」
 
腕の中で小鳥が小さく身動ぎをする。
女性は、こんなに脆く儚いモノだと、抱く度に思ってしまう存在。
だからと言って、弱々しいモノではない。
俺が、悲観的になればなる程、彼女は俺を強い力で引き上げてくれる。
 
「…くぅ」
「くすっ」
 
腕枕が気に入っているのか、毎回蕩けた表情で、寝ている筈なのに擦り寄って来る。
どうして、無意識の行動で、人の心を掴めるのか…分からない。
 
「お前が愛しくて仕方ない」
 
ゆっくりと、春色の髪に指を差し入れる。
俺の髪を美しいと、昨夜髪を乾かし合った時に話していたが、そんな事は無い。
春歌の髪は最上級の絹糸よりの手触り良く。
オーダーメイドの服よりも、俺の指にしっくりして、香りは同じモノを使っていても何故か甘く香り花の様に俺を引き寄せ…魅了する。
 
「…もう少し寝かせてやりたい…そう思っているのだが」
「…くぅ」
 
幸せな夢を見ているのだろう。
桃色の唇は微笑みの形のまま。
 
…時折。
彼女は、俺だけを見つめていると分かってはいても、苦しくなる時があり…胸を抉り出したくなる衝動が止められない。
生きている限り。
人に触れて生きて行かなくてはいけない。
彼女が、俺に向ける微笑を他の者に与えている。
勿論。その意味に愛は篭っていなかったとしても、この腕の中だけで彼女を愛したい…。
馬鹿げた思いは、日々心を蝕んでいく…。
 
「すまないな」
「…んっ…ん?あ…真斗くん」
「起こしてしまったな」
「いえ。夢でも会っていましたから」
「…そうか」
「?」
 
覆い被さる様に、彼女にキスを。
腕枕が、気に入っているのか、必死に手を絡めて来る仕草で、心の痛みが軽減されていく。
 
___愛されたい。
___愛したい。
___春歌だけを。
 
「お前を愛している」
「私もです」
「お前が想像出来るよりも」
「…負けないです」
 
俺の腕を持っていた両手は、胸前で力強く握られ、気合を示す。
『くすくす』
つい無意識に微笑むと、幼いと俺が思って笑ったと思ったのだろう。
頬を少し膨らませて、『もぅっ』反撃のキスを頭を上げて唇に。
まだ触れるだけのキスだけでも、必死で…。
その行動が俺を煽っているのだと気付かない。
 
「離してやれない」
「離さないで下さいね」
 
もう一度。
その体温を感じたい。
二度と離さない様に。
俺が突き放さない様に…。
 
愛は永久にお前のモノ……。