『1122』(龍也x春歌)
「今日は11月22日です…」
珍しく龍也さんがお休みの一日。
テレビを見ながら、新聞に目を通していて
その姿を、そっと。
珈琲を置きながら見るのが、実はとてもお気に入り。
鋭い視線が、
楽しい記事に目を通す時には、ふわりと柔らかくなり、
凄惨な記事には怒気を含んだ瞳に変化する。
この表情は、
演技をしている時とは違って。
素。
私だけが知っている恋人なのだと、思うだけで心が弾んでしまう。
『龍也さん』
つい。
甘い場所にいても良いと許されている嬉しさで、話し掛けてしまいそうになるけれど、
呼び掛けで私自身に視線が向けられてしまえば、
今の仕草を見る事は出来なくなってしまう。
___我慢。我慢。
珈琲を置いた後。
そっとトレイを胸に抱き、離れようとした時。
「きゃっ」
世界がグルリ。と回って…。
金属のトレイが手から離れてしまう。
「あっ」
「おっと。すまねぇな」
「トレイっ」
「ああ。受け取った」
「…すみません」
「いや。俺のせいだ」
あまりに急激な動きについていけない私の思考。心が、
やっと落ち着きを取り戻した時。
体が、龍也さんの腕の中にいる事に気付いた。
ソファーに座ったまま。
私を引き寄せ、手から離れたトレイを簡単に受け取り、テーブルに置く。
全部。
珈琲を入れる私の動きより簡単にしてしまう。
悪戯っ子の様な龍也さんの表情に心音が煩くて。加速していくのも止まらない。
どうして。
こんなに私の心を魅了し続ける事が出来るのだろう。
そう考え始めた時。
前髪に、指を通された。
「あのな」
「はい」
「今日何の日だか知ってるか?」
「えっと…龍也さんがお休みの日です」
「あははっ。お前。堪らない事を言うのが得意だよな」
「?」
「違う。11月22日。『良い夫婦』の日だよ」
「あっ」
付き合い出した事が夢の様で、先は何も考えていなかった。
日々。
『帰さなきゃいけない。
分かってる…だけどな』
その言葉で同じベッドで寝起きする様になった事でさえ、
毎朝。
横になっているのに、幸せでクラクラが止まらない。
大人の恋人は私の思いを全部お見通しなのかもしれない。
眉を寄せて、
『困った奴だな』
また、新しい表情。
「誰にも…」
「ん?」
「見せないで下さい」
「何をだ?」
「その…素敵な龍也さんを。です」
「ったく。お前。誘うの上手いよな」
「さそ…ええっ。そんなっ」
額にキスを落とされる。
『誘うのが上手い』
『煽るな』
よく言われるけれど…自分では分からない事ばかり。
龍也さんの傍にいる
美しい女優さん。
恋や愛に慣れている大人の女性の様に振舞えないのが、
いつも気になって、心を痛めているだけ。
瞳に涙が浮かんでくる。
「難しい事は話してねぇぞ?」
「はい…」
「仕方ねぇな。
まぁ。そんな所も好きだけどな」
「好き?」
「ああ。お前が好きだ」
「…嬉しいです。私も龍也さんが好きです」
手を伸ばして、
優しく見つめるその瞳に近付きたくて、首裏に通して…引き寄せる。
唇は恥ずかしい…から、喉。
男らしさを感じるといつも感じている部分にキスを…。
「…っ。お前。我慢してるってのに」
「え?」
「責任とってやる。
俺色になれ。
俺専用になれ。
____もう少ししたら、嫁に来い」
「……お嫁…さんですか?」
「嫌…じゃないよな?」
私の思い。
感情。
全部が龍也さんに追い付くまで待っていてくれるのだと思う。
そこまで見切れるのに、返事をすぐに返せない私を見る表情には、
ほんの少しだけれど、不安の色…。
『嫌』
そんな言葉。
返す訳が無いのに…。
「はいっ…はいっっ」
「遅いんだよ。まぁ。頑張った方か」
「龍也さん…」
「離れるなよ」
「はい」
まだ。
結婚式をする訳でも無いのに。
部屋に入る光がキラキラと。
まるで式場の様に美しく輝いて私達を包む。
祝福されている様に。
離したくない。
離して欲しくない。
私には、龍也さんしかいないのだから。
___いつか。
『良い夫婦の日ですから』
その記念日の食卓を二人で用意する事を夢見て、
腕の中で力を抜く……。
「今日は11月22日です…」
珍しく龍也さんがお休みの一日。
テレビを見ながら、新聞に目を通していて
その姿を、そっと。
珈琲を置きながら見るのが、実はとてもお気に入り。
鋭い視線が、
楽しい記事に目を通す時には、ふわりと柔らかくなり、
凄惨な記事には怒気を含んだ瞳に変化する。
この表情は、
演技をしている時とは違って。
素。
私だけが知っている恋人なのだと、思うだけで心が弾んでしまう。
『龍也さん』
つい。
甘い場所にいても良いと許されている嬉しさで、話し掛けてしまいそうになるけれど、
呼び掛けで私自身に視線が向けられてしまえば、
今の仕草を見る事は出来なくなってしまう。
___我慢。我慢。
珈琲を置いた後。
そっとトレイを胸に抱き、離れようとした時。
「きゃっ」
世界がグルリ。と回って…。
金属のトレイが手から離れてしまう。
「あっ」
「おっと。すまねぇな」
「トレイっ」
「ああ。受け取った」
「…すみません」
「いや。俺のせいだ」
あまりに急激な動きについていけない私の思考。心が、
やっと落ち着きを取り戻した時。
体が、龍也さんの腕の中にいる事に気付いた。
ソファーに座ったまま。
私を引き寄せ、手から離れたトレイを簡単に受け取り、テーブルに置く。
全部。
珈琲を入れる私の動きより簡単にしてしまう。
悪戯っ子の様な龍也さんの表情に心音が煩くて。加速していくのも止まらない。
どうして。
こんなに私の心を魅了し続ける事が出来るのだろう。
そう考え始めた時。
前髪に、指を通された。
「あのな」
「はい」
「今日何の日だか知ってるか?」
「えっと…龍也さんがお休みの日です」
「あははっ。お前。堪らない事を言うのが得意だよな」
「?」
「違う。11月22日。『良い夫婦』の日だよ」
「あっ」
付き合い出した事が夢の様で、先は何も考えていなかった。
日々。
『帰さなきゃいけない。
分かってる…だけどな』
その言葉で同じベッドで寝起きする様になった事でさえ、
毎朝。
横になっているのに、幸せでクラクラが止まらない。
大人の恋人は私の思いを全部お見通しなのかもしれない。
眉を寄せて、
『困った奴だな』
また、新しい表情。
「誰にも…」
「ん?」
「見せないで下さい」
「何をだ?」
「その…素敵な龍也さんを。です」
「ったく。お前。誘うの上手いよな」
「さそ…ええっ。そんなっ」
額にキスを落とされる。
『誘うのが上手い』
『煽るな』
よく言われるけれど…自分では分からない事ばかり。
龍也さんの傍にいる
美しい女優さん。
恋や愛に慣れている大人の女性の様に振舞えないのが、
いつも気になって、心を痛めているだけ。
瞳に涙が浮かんでくる。
「難しい事は話してねぇぞ?」
「はい…」
「仕方ねぇな。
まぁ。そんな所も好きだけどな」
「好き?」
「ああ。お前が好きだ」
「…嬉しいです。私も龍也さんが好きです」
手を伸ばして、
優しく見つめるその瞳に近付きたくて、首裏に通して…引き寄せる。
唇は恥ずかしい…から、喉。
男らしさを感じるといつも感じている部分にキスを…。
「…っ。お前。我慢してるってのに」
「え?」
「責任とってやる。
俺色になれ。
俺専用になれ。
____もう少ししたら、嫁に来い」
「……お嫁…さんですか?」
「嫌…じゃないよな?」
私の思い。
感情。
全部が龍也さんに追い付くまで待っていてくれるのだと思う。
そこまで見切れるのに、返事をすぐに返せない私を見る表情には、
ほんの少しだけれど、不安の色…。
『嫌』
そんな言葉。
返す訳が無いのに…。
「はいっ…はいっっ」
「遅いんだよ。まぁ。頑張った方か」
「龍也さん…」
「離れるなよ」
「はい」
まだ。
結婚式をする訳でも無いのに。
部屋に入る光がキラキラと。
まるで式場の様に美しく輝いて私達を包む。
祝福されている様に。
離したくない。
離して欲しくない。
私には、龍也さんしかいないのだから。
___いつか。
『良い夫婦の日ですから』
その記念日の食卓を二人で用意する事を夢見て、
腕の中で力を抜く……。