『覚えてますよ』
頭の中でその言葉が反響している。
どういうことだ?
ニノくんは記憶を保つことができないんじゃなかったのか?
それともあれか、ニノくんが毎日書いてるノートのことを言ってるのか?
頭が追いつかず、そのような考えばかりが忙しなく動いている。
身動き1つ取れなかった。
これはニノくんに確認すべきだよな。
考えてもわかんねーし。
でも焦りの方が勝っちまって、またニノくんを傷つけてしまったらどうしよう。
「…さとしくん、考えてること全部漏れてるよ」
翔くんの言葉にハッとなり、慌てて口を抑える。
そんな俺を見て、翔くんはククっと笑った。
そして、ニノくんの方に目をやる。
「俺も、正直言って戸惑ってる。ニノくんの記憶が戻ったんじゃないかって。でも、さとしくんの気持ちもわかる。今までずっと悩んできたの知ってるからね」
翔くんが小声で俺に話す。
優しいその声に共感され、泣きそうになる。
翔くんはじっとニノくんを見つめたままだ。
でも、と翔くんが言葉を続ける。
「さとしくんがニノくんを傷つけることは、もうないと思う」
迷いのないはっきりとしたその言葉に、俺は少し戸惑った。
「…どうしてそう思うんだ?」
わからなかった。
自分はニノくんを傷つけてしまう不安が拭えない。
でも、翔くんははっきりと否定する。
根拠は?
翔くんがそう思ってくれる根拠はなんだ?
親友の言葉に耳を傾ける。
すると翔くんは、フッと顔を緩めた。
「どうして?そんなの根拠なんかないしわかんないよ。でも、ずっと横で、ニノくんを大事に想うさとしくんを見てきた。少なくとも俺の知ってるさとしくんは、どれだけ傷ついても、ニノくんを責めるようなことはしなかった。もちろん、俺が来る前にニノくんを傷つけてしまったってことは知ってるけど。俺は、今のさとしくんがニノくんを傷つけることはないって信じてるよ。」
そう言うと、翔くんはニヤッと俺を見た。
「いざって時は俺が止めてあげるよ。なんのために俺がここにいると思ってるんだよ。さとしくんは1人じゃないんだから」
翔くんは俺の背中を静かに叩いた。
まるで、大丈夫だ、と勇気づけてくれてるみたいに。
そうだ。俺はずっと悩んできた。
ニノくんを好きがゆえに、自分の気持ちを押し殺して見守ってきた。
でも、そんな俺を傍で見てくれていた人たちがいる。
俺の悩みを知ってくれている人たちがいる。
それだけで充分だった。
俺はひとりじゃない。
「…ありがとな。その時は任せた」
その言葉を聞くと、翔くんはニィっと笑い、俺の顔を覗き込んだ。
「りょーかい☆」
翔くんのあまりの近さに思わず顔をしかめ、身を引いた。
「離れろ、気持ち悪い」
「えー、そんな酷いこと言わないでよ」
「ヤローと馴れ合う気はない」
「一応ニノくんもヤローだよ?」
「ニノくんは違う。天使だ。同じにすんじゃねぇ」
「さとしくんひど」