私が里帰り出産をしたのは2月。
さすがに自由なにぃも雪の多い冬は出歩かない。
こたつ守りだ。
にぃは生まれたての赤ん坊を遠巻きに観察していた。
近づいてはいけないと、わかっているかのように、赤ん坊の近くには来なかった。
本当にお利口さん。
お利口さんすぎて……
産休明けてすぐに職場復帰した。
その頃は託児所もなく、義母が子守り。
そういう家が多かった。
ところが復帰後間もなく義母が骨折して入院となってしまった。
仕事を休むという選択肢はなく…うちの会社には育休もなかったのかな?
世の中にもなかった?
あっても取る人いなかった?
私が無知だったのかな。
実家に預けるしかなかった。
母はずぼらでがさつで、ホントにいい加減な人なので心配だった。
まぁそれでも嫁ぎ先の大事な長男だと思ってか、母なりに懸命だったのだろう。
にぃがいつものように母にまとわりつくと「お前の相手してる暇はない」「お前はもう爺さんなんだから大人しくしていろ」みたいなことを言ったそうだ。
にぃがいなくなった。
何ヵ月も家出した時みたいに、きっとまた帰って来る。そう思っていたけど、いつまで経っても帰って来なかった。
探し歩いたけど、誰も見かけたと言う人もなく、そのまま時は流れてまた雪の季節になった。
猫は死ぬ時、姿をくらますと聞いたことがあるけど、別に病気もしていなかったし、大年寄りでもなかった。
喧嘩で負けて、どこかで死んじゃったのかな。
でも私は、きっと母の言葉に傷ついたんじゃないかな、と思った。
母のことが大好きだったのに邪険にされて、もう自分のいる場所がないと思ったんじゃないかな。
そうだったらかわいそう。
勝手に拾って可愛がって、最後がそれじゃかわいそうすぎる。
にぃのことはずっと忘れない。
その後、猫を飼うことはなかった。
あんな思いは二度としたくない。
猫にも失礼だ。
私に猫を飼う資格はない。
私の猫は生涯にぃだけ。