さて、映画『きみの色』の宣伝のために、ニューヨークを訪れていた山田尚子監督を、

同作のアメリカの配給会社、GKIDSでおよそ30分近く取材させて頂き、

今回はその記事を日本語でブログに掲載します!興味があったら、フォローや拡散もよろしくお願いします。

 

by 細木

 

 

 

 

Q: 今作は、鑑賞した人がすごく感情移入できる作品だと思いました。山田さんは映画『けいおん!』や『リズと青い鳥』で音楽をモチーフにした作品を手がけられてきたんですけど、今回は、また新たに音楽がモチーフに音楽と色という形で表現されいますが、制作のきっかけになった原点みたいなものは何だったのでしょうか?

 

山田尚子  : そうですね。 今回オリジナル作品ということで、何をしようかと考えたんですけど、まず自分が何か映画を見るときって、自分は何に興味を持って見てるだろうと思ったんです。 そのときに映画内のリズムだったり、音楽だったり、フィルム自体の画面だったり、フィルムから立ち上がってくる何か物っていうのを、自分はすごく受け取ろうとしているなと思いました。何かそういう体験をするような映画の見方や、そういう見方をしている人たちもきっといるから、ストーリーを追うだけではなくて、その外側にあるものも楽しめるような映画を作ってみたいなと思ったのが最初でした。そこから色とか、音のリズムみたいなのをテーマに、作品を作ってみたいなと思いました。

 

Q : 山田さんの作品は、個人的にですが、それぞれの主人公が独特の世界観を持ってて、ある意味その主人公が小宇宙みたいな世界観を作り上げているような印象があって、観客はその小宇宙の中で浮遊しているような感覚を味わっている様に思えます。 それがすごく僕の中で印象に残っていまして、すごく心地良い感覚を受けるんです。主人公を描くときに、どういったことをまず大切にして描き始めていこうとしてるんですか

 

山田尚子 : ありがとうございます。すごく素敵な解釈ですね。結構、よく聞かれることの一つとして、「(映画の主人公は)自分を反映しているかどうか?」みたいなことをよく聞かれるんですけど、それがまずないというのが一つあるかもしれないです。 映画の中に自分を存在させていないと思っていて、そのキャラクターに対する考え方とかキャラクターに向き合うときに、1人の人として友達だったり、家族だったり、全く知らない人だったりに、向き合ってるような感覚で描いていて、それをすごく私は大事にしているんです。

 

何か自分が語りたいことを、作品の中でキャラクターに話してもらうみたいなことではなくて、彼女たちは何を考えてるのかなとか、どういうものが好きで、どういうものを見て、何がしたいのかとか、ということを一個一個キャラクターに聞き出すような感覚で、それをすごく大事にしていますね。

 

Q : 今作は、あえて映画内で言語化しないというか、色や踊りなどで表現するアプローチがとっても魅力的で、やっぱり若者を描く上で、普通のアニメだとすごく台詞が多いと思うんです。 けれど今作は、言語化しない表現の仕方がすごく重視されてると思うんですけど、どういったことを具体的に意識されていのでしょうか?

 

山田尚子 :何か、もう既に名前が付いているものへの安心感って、たぶんあると思うし、映画とかも最近は、どういう風に見ることが正解か、先に映画を見る前から提示されているようなことも多いかなと思います。「このように映画を見ましょう!」みたいな、それはなんかちょっと面白くないような気がすします。何か映画を見るときは、もっと能動的に観てほしいし、自分もそういう風に映画が見たいです。映画を見て感じたことを、すぐに言葉にならなくて良いと思ったんです。

 

すぐに話す必要はないと思うんだっていうか、まず自分の中で何か考えるきっかけになるといいなという気持ちがすごく強くて、なので、身体的なダンスだったり音楽だったりとか、色だったりっていう、見た人それぞれの解釈が多分100人いたら100通りあってもいいだろうと思う、そういう映画が作りたくてやっていたと思います。

 

Q : そんな、あまり言語しかしないアプローチする上で、これまで脚本家の吉田玲子さんとは長年タッグを組まれていますけど、どういった出発点で、吉田さんには事前に伝えて初めて行ったんでしょうか?

 

山田尚子  : そのあたり、確かにあんまり具体的に話はしてないかもしれないです。と言うのも、まさに映画と同じように言葉とか、名前を付けた瞬間に、何かそれが死んじゃうような気がしています。なので、吉田さんと話すときも、あまり具体的な話をしないというか、すごく本当に周りの形を話すような気持ちでやってます。

 

Q : そうなんですね。その色の使い方とかそういった踊りとか、そういったものを具体的に、何かLayoutしていくと言うような感じなんですね。

 

山田尚子 : そうですね、もちろん具体的に言わないと進まないことも沢山あるので。

 

Q : 今作も、音楽は牛尾(憲輔)さんとタッグを組んでるんですけど、特に「水金地火木土天アーメン」という一つの言葉だけで、そこから映画内でも君とルイがいろいろ音楽を作り上げていくんですけど、実際に牛尾さんとはどういった形でこの曲を仕上げていったのでしょうか?言葉だけだと印象に残る言葉ですが、そこを音楽として広げていく過程がすごく気になりました。

 

山田尚子 : このバンドの音楽を作るっていうのは、牛尾さんとの仕事では初めてなので、 そこのチューニングをしていく作業がまずあったんですけど、「水金地火木土天アーメンという牛尾さんも、どういった方向性でこのバンド曲を作っていこうか、たくさん悩んでいらっしゃったと思うんですけれど、その悩みを少し軽くする意味で、もうこのトツ子というキャラクターは、「そういう「水金地火木土天アーメン」いう言葉を思い付いちゃう子なんです」というプレゼンテーションをから始めました。 

 

そこから、もう牛尾さんは理解されていって、大事にしたこととしては、牛尾さんは(音楽の)プロなので、そのプロとしての音楽作りをしなければいけないと、やっぱり無意識にも考えてしまわれるから、「プロじゃなくて、学生が作った曲であることを大事にしていきましょう」という話で、その作品の中でこの3人が作って演奏していることに、納得してもらえるような、大人が作った音楽じゃない。 商品ぽくない音楽っていうのを作りましょうと話しました。

 

Q :その中で、楽器テルミンなんかは、牛尾さんからの提案があったのでしょうか?やっぱり音楽にある程度知識がないと、あまりテルミンみたいなアイディアはあまり生まれてこないと思うんですけど。

 

山田尚子 : 実は、テルミンは最初の段階からもう決めていて、すごく個人的にテルミンという楽器の(音楽の)構造に興味がすごくあったので、ただなんか、結構音楽的じゃない使い方をされてることが多い印象だったので、何て言うんでしょう宇宙のような浮遊感というか、音楽を演奏していても、すごく不思議な音感になっているのが不思議だったときに、その今回ルイくんのテルミン役をやってくださったフランスのテルミン奏者のグレゴワール・ブランさんという方のYouTubeを見る機会があって、その方のテルミンが、本当に弦楽器をもうしっかり引いているような、音の浮遊感じゃなくて、本当にばっちり音符に当てはめて音楽を演奏されていて、それがすごく衝撃的だったんです。 テルミンでこんなにはっきりとしたその音階を取って、演奏ができるんだというところにびっくりして、これを作品の中でぜひ鳴らしたいと思ったんです。

 

Q : 牛尾さんと仕事をしていて表現や感性とか、そういう何か価値観を共有してる部分とか、近い部分があるのでしょうか?

 

山田尚子: 近いところはすごくありまして、牛尾さんはすごくロジカルに物を考えられる方だし、すごく博学で頭も良くて、人間としては結構自分とは逆なんですけど、そのロジカルな部分の裏側には、ものすごく感覚的な部分も持ってらっしゃる方で、なのでどちらも行き来できる方ですね。 なので話を自分がしたときに、どっちで受け取るかっていうのを、たぶんご本人がおそらくハンドリングしてやってらっしゃると思うんですけど、その彼の中にあった感性、ずっと大事にしてきたこととか、自分の大事にしてきたものと合致する瞬間があって、ものすごくフィットしていると思う瞬間があります。

 

Q : この3人のキャラクター、トツ子、きみ、ルイは、学生として他(ほか)とうまく溶け込んでいないけれど、 それぞれ個性が持つものをお互い大切にし合ってる印象でした。そういった素直な感覚で、お互いをサポートするような感覚を持ち合わせてる3人に思えました。そんなこの3人のキャラクターを作り上げる上で、どういったものが3人を結びつける要素だと思って作られていったのでしょうか?

 

山田尚子 :最初の目標では、好きなものを好きと言える強さというのをちゃんと描きたいなと思ったんです。 嫌いを言う方が楽というか、 どうしても人と話すときに、「これ好きなんだ」って言ったときに、否定されたらすごく傷ついてしまうというか、とても大事なものなので、なのですごく勇気のいることだと思うんです。「これが好きです!」と怖がらずに言える関係性っていうのを描きたくて、それがきっかけで本当に受け入れるとか、相手を受け入れるだったり、相手の言うことを聞くだったり、本当にそのシンプルだけど、一番大事なことだと思うところを、一歩ずつちゃんと描きたいなと思いました。

 

Q : 今作の日本の声優陣のキャスティングについてもお聞きしたいんですけど、トツ子役の鈴川(紗由)さん、きみ役の高石(あかり)さん、ルイ役の木戸(大聖)さんと、それぞれどういった形でキャスティングされていたんでしょうか?

 

山田尚子 :トツ子がやっぱり作品の中で一番のポイントになるキャラクターなので、 彼女が決まらないと、他の2人は決まらないなと思っていました。 トツ子というキャラクターが、まず見ている人にとって、ちゃんと好感度の高いキャラクターに、変なこと言えば、すごいたくさん真面目な話もするし、ちょっと不思議な感覚を持って不思議な話もするし、そこがハマれば、と言うかトツ子が見つかれば、バランスを取ってきみとルイくんが見えてくるかなという感じでした。すごくラッキーなことに、鈴川紗由さんというもう本当にぴったりだったんですね。彼女の声を、もう初めて聞いたときから、もう一瞬でトツ子だと思えた方だったので、鈴川さんを軸に・・

 

Q :オーディションをされたんですか?

 

山田尚子 :そうですね。本当に最後の最後まで、結構難しくて、いろんな可能性があったので、この3キャラクターのために、最終的に残ってくださった役者さんを組み合わせを変えたりとか、掛け合いで決めました。

 

Q : 今作で、やっぱり印象に残ったのは、色の表現の仕方だと思うんですけど、画家とか絵画とか、あるいは映像を見る限りの勝手な解釈なんですけど、ヨーロッパの印象派だとか、実際に何か具体的に影響を受けた画家さんとか絵画の作品とかあったりするんですか?

 

山田尚子 :でも本当におっしゃる通り、ヨーロッパの印象派の絵画は、スタッフの間で共有してました。キャラクターのトツ子が感じるきみちゃんとか、瑠衣くんの色が、きみちゃんが青で、ルイくんが緑で、そしてトツ子が最終的に赤なんです。それを光の三原色として設定していて、それは印象派の絵画は光を分散させて、たくさんの色を一つの色の中に入れることによって、光を描いている技法なので、まさに作品としてはぴったりだったから、光を描きたいっていうところで、印象派の話をよくしましたね。

 

Q :  すごく観客が本作に共感が持てる部分として、それぞれの3人のキャラクターの仕草とか、いわゆる癖とか、そういったものがすごく丁寧に織り込まれてると思うんですけど、やっぱり普段からそういったものをなるべく何か意識しているのでしょうか?山田さんの作品は、そういった部分がすごく共感を持ちやすい部分の一つだと思っていて、派手なストーリーとかよりも、そういったストーリーの方が、共感を持ちやすいっていう認識があるんでしょうか?

 

山田尚子 :最初はどう思って、やり始めたのかちょっと思い出せないですけど、でも初めに言ったみたいに、キャラクターを1人の人として見ている感覚が強くて、このキャラクターにこういう癖を持たせようっていう始まりというよりかは、描いていく中で、あるいはキャラクターと対話していく中で、その子が動いてくるみたいな感じですかね。 何か手を振るなら、こう振る子なのか、こう振る子なのか(手で大きく振るジェスチャとしいさく振るジェスチャーをしている)とか、だんだん自然に見えてくる感じにしました。

 

Q : 事前に黒澤明監督じゃないんですけど、いろいろキャラクターについて何ページも、何かその癖とか、何か書き出すとか、そういったことはやられるんですか?

 

山田尚子 : 私は、やらないんですよ。 だからスタッフの方は、(キャラクターを)結構読みきれないかも知れないですね。なので絵コンテを書くときとかに入れていく、スタッフの方からもだんだんとやっぱりちゃんと理解してくださる方がたくさんいるので、どんどんアイディアも入れてくださったりするし、なんかキャラクター表みたいなのが、本当はあった方が良いとは思うんですけれど・・(苦笑)

 

Q : それは何かキャラクターデザインの小島さんとやる上で、ある程度、もう共通理解してる部分があってみたいな形で、進められているということでしょうか?

 

山田尚子 :そうなのかなと思いますね。小島さんもあまりたくさん話されるタイプの方じゃないので、お互い10あるところ1ぐらいで返していく感じのイメージで、そこで余白をそのやり取りの中から構築していくみたいな感じですかね。

 

Q: それが逆に表現的には面白いのかもしれないですよね。逆にあんまり詳細にしない方がむしろ・・・。

 

山田尚子 :個人的にも、私はそっちが良くて、なんか全部決められちゃうのがあんまり好きじゃないから、余白とかそのイメージすること、考えることみたいなのを絶対にしたいし、相手にも考えることが好きな人であってほしいというのが、すごくありますね。

 

Q :  山田さんは、映画『君の名は』とか、映画『天気の子』を手掛けられた新海誠監督から大きな影響を受けたらしいですけど、新海誠さんのどういった部分に惹かれているのか、どういった部分に憧れているのでしょうか?

 

山田尚子 : 私は新海さんと自分がやっているこは、全く交わらないことをやっていると思っていて、 逆に素直に尊敬できるというか、もう新海さんはどこまでも新海さんで、私はそこにたぶん作品として交わっていくことがないという所が一つあって、新海誠さんのようなフィルムを作ろうみたいなことは、まず考えないですし、でも新海さんが次にどういう作品を作っていらっしゃるのかもすごく興味があるし、なので何か勝手に走っていながら見さしてもらってる感じです。作品作りの軸が違っていて、新海さんは本当にストーリーの展開だったり、ストーリーの組み立てを本当に大事にされてる方だと思うし、何か自分はその外にあるものを書こうとしているような気がします。

 

Q : 上海国際映画祭のアニメ名門で最優秀作品賞を取られたり、アヌシー国際映画祭の長編のコンペ部門で出展されたりしいますが、今回、アメリカでは配給がGKIDSに決まって、この会社は宮﨑駿さんの作品とかも配給されていて、そんなGKIDSからアメリカに配給されるっていうことに関してどういったお気持ちですか?

 

山田尚子 :恐ろしいです。(笑)自分は、できることをするしかないし、ただただ夢中に、がむしゃらに作品を作ったんですけど、その作品をGKIDSさんたちが興味を持ってくださって、買ってくださったっていうのが、その自分の目標としては、いつかそうじきさんとお仕事することがあるんだといいなと思っていたんですけど、実際に実現してしまうと本当に恐ろしくて、何か皆さんちゃんと楽しんでくれてるかな?というのを、すごくハラハラしたりしてます。大きな船に乗せてもらっちゃった感じですね。

 

Q : 今作は、Japan Societyとかニューヨークにある別の映画館で上映されて、アメリカ人の反応は、日本の時日本人とは違った部分ってありますか?

 

山田尚子 :もう、すごくはっきり明確にあって、映画を鑑賞してる間に、すごく皆さん笑ってくださったり、でもシリアスな部分では、本当に真面目に観てくださったりしていて、でも楽しかったら、本当に手拍子もしてくださって、もう本当に映画を楽しもうとしているっていうのが、ダイレクトに伝わってきましたね。 結構、日本はその静かに映画を見ることが、映画へのリスペクトなっていますけれど、本当にその真逆で、すごくそれが楽しいくて刺激的でしたね。