さて今回は、アメリカではGKIDS配給のアニメ映画『ひゃくえむ。』で、岩井澤健治監督への単独インタビュー記事を、

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by 細木

 

 

 

Q : 漫画「チ。 -地球の運動について-」を読んで、漫画家、魚豊さんの作品に興味を持ったそうですが、まず魚豊さんの原作「ひゃくえむ。」の漫画を読んだ際の第1印象を教えてください、そして、どの部分がアニメ化に向いていると思われたのでしょうか?

 

岩井澤健治:そうですね。 最初、「チ。 -地球の運動について-」から魚豊さん作品に入って、この「チ。 -地球の運動について-」がすごく面白かったので、この新しい若い作家の方が、他にどういう作品を作ってるんだろうなと思って、「ひゃくえむ。」という作品がデビュー連載作として、陸上をテーマにしているという、全然また「チ。 -地球の運動について-」とは違ったテーマでやってるということで読んでみて、デビュー作っていう情報があったので、すごくちょっとデビュー作らしい初々しさみたいなものがあるのかなと思ったら、結構最初から魚豊さんの作家性が、すごく出てる作品でした。

 

本当にマンガの表現としても新しい人だなと思いました。本当に単純に魚豊さんという作家に興味を持っただけで、その最初に「ひゃくえむ。」を読んだ時は、自分が映像化しようとかっていう風には、全然思ってなかったんですけど、その「ひゃくえむ。」を読んでちょうど二週間後ぐらいに、今回の「ひゃくえむ。」の監督オファーをいただいたんですね。まあ、すごくタイミングも良かったです。それで、じゃあやってみようかなと思いました。

 

Q : 魚豊さんの原作「ひゃくえむ。」は全部で五巻あるそうなんですけど、そこからいかにその漫画のエッセンスを抽出して、まあ二時間弱のアニメに落とし込んだんでしょうか? どういった部分を省いて、どういった部分を重要視して描いたのでしょうか?実際、その魚豊さんともディスカッションされたそうですが、 あの制作の過程の経緯について、ちょっと教えて頂けますか? 

 

岩井澤健治:まず、お話を頂いて、改めて「アニメーション映画をやりたいです!という話を頂いたので、そこからアニメーションにするのであれば、当然、映画用の構成にしなければいけないなというのと、表現の仕方が漫画と映画では当然違ってくるので、やっぱりアニメ映画でやるのであれば、アニメ映画でしかできない表現をしたいなというところがありました。

 

まず、魚豊さんの作品の特徴でもあるんですけど、キャラクターの心情をモノローグで見せるという、そこにすごく哲学的な言葉があったり、すごくそれが特徴的ではあったんですけど、映像にするときはどうしても、そこは音であったり、色であったり、 いろんな表現の仕方があって、なおかつこの100Mという一瞬で終わってしまう競技で、やっぱり臨場感だったり、没入感だったり、あとはテンポよく見せたいなっていうのもありました。

 

そこで、「まずモノローグをちょっと映画では、できるだけ無くしていこう」と言いましたね。 なおかつ構成するうえで、映画にも出てくるんですけど、原作でも仁神(にがみ)というキャラクターを通して、陸上の残酷さとかが描かれてはいたんすけど、そこに対するボリューム(ページ数)もちょっと多かったので、映画ではトガシと小宮の二人の物語に集約しようと思って、この原作の仁神(にがみ)にまつわるエピソードを、大きく排除しました。 それによって今の映画の構成にすごく収まるようになった感じです。 

 

Q : 興味深いのは、先ほど岩井澤さんもお話しされた通り、その仁神(にがみ)と彼のの父親との比較のプレッシャーなど、そのトガシの契約の更新やら肉離れなど、走ることを続けるだけでも、すごく様々なドラマが付随しています。そういった陸上の選手の人たちの発想や感覚を理解するために、実際に陸上の選手ともお話しされたことはあるんですか?

 

岩井澤健治: そうですね。まだ脚本を作る前の段階で、実際に現役の陸上選手の方に直接お話を聞く機会があって、そこで一時間ぐらいお話させて頂いて、結構そこで、色々な陸上選手のリアルな実情というか、そういうものは作品を作る上でも参考にしましたね、脚本作る時に。 実際にエピソードを作品の中に落とし込んでるところもありますね。 

 

Q : プロの選手とお話しされたんですか? 

 

岩井澤健治:はい、プロの選手ですね。

 

Q : お名前は伏せてらっしゃるんですか?それとも出されているんですか?

 

岩井澤健治:名前は出ていますね。竹田一平選手。

 

Q : 今回、トガシと小宮役の声優に、松坂桃李さんとその染谷将太さんが配役されてるんですけど、松坂さんはどちらかというと、あくまで僕が見た観点ですけれど、割と表に出やすい、感情的な表現をされる方だと思いますけれど。 染谷さんはむしろクールで抑えたような、すごく感情がなかなか理解できない、浮遊感みたいな要素を持ってるんですけど、この二人を配役された経緯をちょっと教えてください。 どういったところが魅力的だったんでしょうか?

 

岩井澤健治:そうですね、まさに自分もそういうイメージがあって、役にもすごくシンクロするなと思ったので、松坂さんのトガシはまさに主人公であって、なおかつすごくブレもある役ではあるので、その結構そういうお芝居の幅みたいなところを、しかも声のお芝居でもそれが表現できる人だなと思ったので、まさにぴったりかなと思ってお願いしました。染谷さん演じる小宮は、本当に染谷さん自身と自分のイメージが被るところがあったので、もう本当にすごくハマリ役だなっていう風に思いましたね。 実際に抑えた感じで

、あの繊細な表現というものも、すごくやって頂けたと思っています。

 

Q : 音楽では、ドラマではNHK「おむすび」とか、TVアニメでは「アオハライド」、「東京リベンジャーズ」なども手がけられた堤博明さんとタッグを組まれていますが、音楽は事前にお話されてからアニメを手がけ始めたのか、それとももう映像ができた段階で音楽を依頼されたんでしょうか?

 

岩井澤健治:堤さんも結構プロジェクトの初期から関わって頂いて、「ひゃくえむ。」の本編の前に、実際にパイロット版があったんですけれど、パイロット版の音楽も堤さんにお願いしたので、結構、初期のメンバーの一人ではあったので、イメージもこうずっと結構長い時間かけて伝えていて、例えば本編の場合は、まず自分からはメインテーマを作ってもらいたいっていうのでお願いして、最終的に本編で使われているタイトルトラックに入っている「100 Meters」という曲を、まず作ってもらいました。

 

その時も、何度もディスカッションさせて頂いて、あのメインテーマの候補曲も、今回使われた曲以外にも3、4曲の違う曲ができていて、それらのそれぞれの曲は、実はリレーのシーンだったり、海棠(かいどう)の最後の走るシーンだったりというところに使われたりしてますね。 なので、そのぐらい結構、緻密にやりとりさせて頂いてましたね。

 

Q : 今回、注目すべき映像で、その高校総体の決勝シーンを、試合前から終了まで3分40秒のワンカットをロトスコープという手法で手がけられているんですけど、その手法を使った理由と、そのロトスコープにどういった利点があって、その映像化を試みたんでしょうか?

 

岩井澤健治:まずロトスコープの手法自体が、自分がアニメーションを作る上で、結構必要不可欠な方法で、自分はもともとそのロトスコープの手法で短編アニメの頃からずっとやり続けていて、自分のアニメーションの表現はもうロトスコープでやるのが、現時点ではイコールというか、ロトスコープ使わないでアニメ作ってと言われたら、多分できないなってぐらい、自分が表現するうえでは必要な手法です。

 

もちろん作品にマッチしないと全く意味がないなと思うので、そこの部分も、そこの雨のシーンは、まさにこの作品のお話を頂いて、実際に陸上の試合を見に行ったんです。試合を見に行った時に、選手が入場してスターティングブロックをセットして、アップしてという一連の流れを、初めてそこで見たんです。 YouTubeの映像だと走りのシーンの前後は抜粋されているものばかりなので、実際の試合の前後みたいなものは、見に行くまでは全然知らなかったんですけど、そこで見た時に、もうそこからもう試合が始まってるなと思って、その準備も含めて一つの試合だなという時に、あのワンカットの映像が、もうその場でイメージが浮かんだんですね。 

 

まさに手持ちカメラで、こうぐるっと回っていくようなあのカットは、ロトスコープの手法じゃないと、なかなか実現できない手法ではあるので、3Dとかでもうやろうと思えばできると思うんですけど、あのテイストのあの感じにはならないので、本当にあそこのシーンが思い浮かんだ時は、もうまさにこれは、ロトスコープじゃないとできない作品になるなと思いましたね。

 

Q : 本当に素晴らしいシーンでしたよ。男女の混合リレーで、そのバトンの渡し方、ダウンスウィープ(バトンを寝かせて渡す)とプレッシュプレス(バトンを立てて押し出すように次走者にパスをする)という、いわゆるバトンの寝かせ方、立たせ方みたいな違いがあるんですけど、 あれは日本代表もバトンの渡し方が世界ですごく有名じゃないですか、あのリレーのシーンも特徴がありますか?何か、いろいろ意識された部分はあるんでしょうか?

 

岩井澤健治 : あれは原作のままで、日本代表がやってるのはアンダーハンドパスで、たぶん原作に忠実というのを狙いましたね。たぶん、物語的にもちゃんと練習しないとできないパトンパスみたいなところで、ちょっと物語的な盛り上がりも含めて、それは原作にあったと思っています。

 

Q : あの海棠(かいどう)のように記録を気にしない人や、緻密な計算をしてしっかり準備した人、ある程度なんか感情的なに勝負する人、様々なキャラクターたちが、この100m走を勝負するキャラクターにいますが、原作からアニメ化するうえで、キャラクターの点でこだわった部分があったり、岩井澤さんがこれはキャラクターに加味した方が良いなと思った点は何かあったのでしょうか?

 

岩井澤健治 : キャラクターはできるだけ原作から真の部分は変えないようにして、どうしても物語の構成上、少しキャラクター性が変わってる部分は、特にトガシのキャラクターは、原作のエピソードが削れることによって、描けなかったトガシのエピソードも出てくるんで、そういうところで、どうしても変わってしまう部分もあるんですけど、 できる限りその原作と印象は変わらないように落とし込んでいくように意識しましたね。

 

Q : 今作は、アメリカではGKIDS を通して配給されるんですけど、アメリカの観客にはどういった部分を、この映画を通して見て頂きたいのでしょうか?

 

岩井澤健治 : これはそうですね、アメリカの方、特有というわけでもないんですけど、そもそも百メートルを題材にしてる映像作品っていうのも、そもそも珍しいですし、日本でも当然アニメーション作品だと多分ないと思いますけど、長距離とか駅伝とかそういうのはあるんですけど、短距離で、これだけちゃんとストレートに描くっていうものはないので、そういうところの珍しさっていうのは、結構どこの国でも、珍しい作品だなという受け取られ方はするのと思いますね。

 

結構、意識したのは、サウンドトラックの曲は、盛り上がるところは万国共通で盛り上がってくれるのかなぁとか、そういうところで演出的にこう、音楽の使い方はちょっともしかしたら、あのアメリカの人にも喜んでもらえるかもしれないなと思って、意識しているところはあったかもしれないですね。 

 

Q : 新井英樹さんの原作の「ひな」(英題:『Hina is Beautiful』)が企画され、約3分のパイロット・フィルムを元に企画・提案、資金調達と長編アニメーション映画化を目指しているそうですが、それが2023年のカンヌ国際映画祭のアヌシー・アニメーションショーケースで上映されたそうですが、それが次回作になるのでしょうか?

 

岩井澤健治 :そうですね。『Hina is Beautiful』は、もともとパイロット版なので、長編に向けてのパイロット版だったので、次はその『Hina is Beautiful』で、次回作はちょっと準備していますね。