事件が起こったのは、2026年3月29日(日)の午後。いつものように、外出して買い物と昼食をすませ帰宅すると、玄関ドアの前に見慣れない荷物が置いてあった。なにやら宅配便らしい4~5個の小包が山積みになっている。どこからだろうと“あて名書き”をみると、『アマゾン』のロゴの横に、受取人の名前が、ぜんぜん別人になっていた。名前どころか、あて先の住所からして、「市」名も「区」名も「集合住宅」名も違っていて、最後にある「部屋暗号」だけがかろうじて同じ、という、とんでもない“配達ミス”だった。
「どこをどう勘違いすると、こんなとっぴょうしもない配達ができるのか」とあきれたが、なによりも困ったのは「これをどうしたらよいか」ということだった。受取人に電話をしようと思っても、あて名にあるのは住所と名前だけで、電話番号が書いてない。相手の“集合住宅名”と“受取人の名前”から電話番号をわりだせないかと調べてみたが、“個人情報の保護”とかいう障壁があるせいか、かんたんには行きつけないようになっている。居住地が近くで、荷物が少なければ、直接届けることもできるが、住所に該当する場所はどこなのか、近距離らしいがどの方向になるのかがさっぱりわからない。しかも、荷物はいくつもあって、重量もかなりあるので、そんな手間をかけるのもわずらわしい。
しばらく、どうしたものかと考えたが、このまま放っておいてもいいはずがない。受取人は、もしかしたら荷物を待ちこがれているかもしれない。また、荷物を放置したままにして、だれかが間違ってもっていってしまったら、よけいややこしいことになりそうだ。
結局、最後のよりどころになったのは、販売・配達を請けおう『アマゾン』に連絡することだった。ところが、かんじんの『アマゾン』への連絡先がどこにも書いてない。インターネットで30分ほど調べたが、“代表電話”や“連絡先Eメール”に該当するようなものが見あたらない。テレビ・コマーシャルで、あれほど有名な企業なのに、電話番号がどこにも記載されてない、というのは驚きだった。しかたなく、インターネットにある「アマゾンのお客様サポート(正式には“カスタマーサービス”かな?)」とやらに連絡してみることにした。ところが「お客様サポート」は『アマゾン』会員だけのためにあるものらしく、ここに接続するためには、会員になる必要があるとのこと。(もともとは『アマゾン』側のミスで生じたことなのに、なんで被害者である私が、そこまでしなきゃいけないんだ!)
これ以外に連絡する方法はないか、『アマゾン』に関する情報をいろいろネットで検索してみたが、いくら調べても、連絡方法は「お客様サポート」以外に見あたらない。“理不尽”を感じながらも「会員登録」の手続きをすることにした。どうせすぐに削除するのだから、「名前」はいいかげんな略号を入れて、重要じゃないところは空欄のまま、私への「連絡先」だけを間違えないように入力した。
最後の項目を入力して、“会員”になったことを確認してから、さっそく「お客様サポート」に入ってみた。いくつか項目が表示されて、その中から“誤配”につながりそうな「相談要件」を選んで、先へ進んだ。すると、「ロボットでないこと」を確認する「数あてゲーム」をやらされ、それをクリアすると、「会員登録」で入力した私の「電話」に自動的に接続するようになっていたようだ。かすかに電話音が聞こえた。ところがそのあとに出てきたのは、「ご用件を選んで番号を押してください」という、よくある“自動音声”の関門だった(誤配を連絡するだけなのに、なんで、こんなことに答えなきゃいけないんだ)。こみあげてくる“不満”をおさえつつ、玄関前に置かれた荷物の中から、最上部にあった小包だけを持ってきて、“誤配荷物”の状況をどうやって相手に伝えたらよいか考えた。
いくつかの無機質な質問攻めを通過すると、こんどはなんと、「ただいま、電話がこみあっています」「しばらくお待ちください」というつれない自動音声の復唱が待っていた。しかたなく、そのまま待ちつづけたが、4回めか5回めの「お待ちください」のあとで、「電話をおかけ直しください」というひとこととともに電話はプッツン。それとともに、なんとかつなぎとめていた私の“忍耐力”も…プッツン…してしまった。
というわけで、とうとう連絡はできずじまいのまま、しばらく、他のことで気をまぎらそうと、テレビをつけた。そして1時間ぐらいすぎただろうか……気分がすこし晴れたところで、『アマゾン』への“連絡”に再びとりかかる気になった。目の前には、誤配された小包がそのままになっている。さっき連絡できなかった項目はあとまわしにして、「お客様サポート」にある他の項目にひとつひとつ入って、どうなっているのか確かめてみることにした。すると、いくつかめの項目をたどった先で、「さらにくわしいことを知りたい場合は…」というメッセージのあとに、『アマゾン』の電話連絡先(0120-899-543)が書いてあった。
そこへ電話をしてみると、自動音声による関門をいくつかくぐり抜けた先に、「オペレータにおつなぎします」の返答が返ってきた(やったぞ! ここへたどり着くまでに、どれほど苦労したことか)。電話に出た男性は、事務的な声でいくつか質問してきたが、“誤配”があったことを告げると、急に低姿勢になって、「それはすみませんでした」とそっけなく応えた。それからすぐに、「荷物番号はいくつか」とたずねてきた。小包にはやたらベタベタといろんなシールがはられていて、それぞれにコード番号らしいものが書かれている。どれが“荷物番号”なのかさっぱりわからないので、しかたなく、書かかれた英数字コードをかたっぱしから答えていった。すると、4つめか5つめのコード番号がヒットしたらしく、「手続きをするから待って」と電話を保留にした。それから、3分ぐらいたっただろうか。「さっそく業者に荷物引きとりの連絡をすませた」という、業務連絡を返してきた。どうやら“配達”は、別会社の担当だったらしい。ミスをしたのは自分たちではない、と言いたかったようで、『アマゾン』からの“謝罪”や“お礼”のことばはいっさいしないまま、電話は切れた。それでも私は、問題が解決したことに、ホッとしていた。
小包を誤配された荷物の山に戻そうとして、ドアをあけて外へ出ると、なんと荷物が全部なくなっていた。配達人が誤配に気がついてとりに来たのだろうか。誤配荷物を発見してから2時間以上が経過しているから、それもありえる。でも、そうすると、小包だけが戻されることなく残ったことになる。まずいことになった。私はすぐに、そのことを知らせるために、再度『アマゾン』の連絡先に電話をかけることにした。
今度はべつの女性が出た。さっきの男性ならば事情がわかっているから、いまのことをかんたんに伝えるだけで理解してもらえるが、べつの人だと、また最初からすべて説明しなければならない。先ほどやりとりした男性に代わってもらえないか頼んだが、ダメだというので、しかたなく、誤配が起こってから、こうなるまでのいきさつを、最初から説明した。そして、最後に残った小包を再度引きとってもらえるように依頼した。今度の女性もずっと事務的な対応で、私の依頼を了解したことだけを告げて、電話は切れた。
それにしても、配達人は、誤配に気づいたなら、荷物をとり戻す前に、誤配した相手先に、どうしてそうなったのかを説明して、まず謝罪するのが礼儀だろう。それなのに、かってに荷物を置いていったかと思うと、また、なんの断りもなくもっていくのでは、マナー違反というより、なんらかの罪に問われかねない行動だ。事件が起こってから、小包を戻すまでの間、私はずっと在宅していたのだから、ドアチャイムを押すだけで、私に会うことができたのに、それをしなかった。いまはやりの「置き配」というシステムが、そうしているのかもしれないが、今回のような場合は、迷惑をかけた相手にあいさつぐらいあって、しかるべきだろう。
また、事件が起こってからいまに至るまで、『アマゾン』側からは、誤配の経緯に関する説明も、正式な謝罪も、誤配を連絡した私に対する謝礼のことばも、なにもない。こういう誤配がどのくらいの頻度で起こるのかわからないが、今回のような状況に陥った人は、私だけではないだろう。他の人たちはどう対処したのだろう。ふつう、こういう場合には、どう対処するべきなのか。私の対処のしかたが間違っていたのだろうか。私自身は、誤配を報告して対処してもらうために、私のできる範囲内で、めんどうくさい探索やら気後れする連絡やらを、誠実に行ったつもりだ。それなのに、それに対する『アマゾン』側の対応には、どうも納得がいかない。
私の時代(少しさかのぼるが)には、業務上で他人に迷惑をかけたり損害を与えた場合には、どんな小さなことでも、かならず本人に直接謝罪するように、と教育されていた。それは、下請けや関連企業が犯したミスであっても同じで、最終的には私たちの職場が責任をとらなければならない、というコンプライアンスが徹底していた。だから私も、アルバイトのちょっとしたミスであっても、相手に謝罪の電話をかけたり、手紙を書いた。先方の家まで出向いて、頭を下げたこともある。
また、私は、落とし物を届けて感謝されたことも、自分の落とし物が届けられて拾った人に感謝したことも、両方ともある。そういう事件を経験すると、自分のうっかりミスを謝罪したり、相手の正直な行為に感激したり、あるいは感謝する人と感謝される人がたがいに認めあったりと、そんな小さなことが、とても大切なことなのだと実感する。おそらく、そんなひとつひとつが積み重なって、社会を正常な状態に保っていくのだろう。だから、子どもたちにもそんな話をして、ささいなことでも誠実でいることの大切さをわからせようとしている。
今回の“荷物の誤配事件”については、なぜ誤配が生じたのか、誤配した本人はそれについてどう思っているのか、『アマゾン』側は今回のことをどう考えるのか、荷物を誤配された顧客や誤配を報告した私に対して謝罪や弁償をするつもりはあるのか、今後同じことが起きないような対策をとるのか、聞きたいことがたくさんある。ところが、どうやら『アマゾン』側は、これらすべてを「とるにたらないこと」と無視して、何もなかったことにするつもりのようだ。
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