1980年12月。
聞き慣れなかった「80年代」の最初の年が暮れようとしている。
ビートルズが東京にやって来たあの日から、もう14年が経つ。
イギリスの4人の若者が日本を去った後も、地球は変わりなくまわり続けた。
巨人軍は何度もペナントを勝ち取り、日本武道館はいつしかロックコンサート会場の殿堂となり、そして、あの午後俺がすれ違った全ての人々に、それぞれの人生が展開した。
俺たちは14年分、齢を重ね、あの日のことなど、もはや忘れてしまったかのようだ。
ヒロシはビートルズ公演の数ヵ月後、グループ「ドラゴンズ」のボーカリストとして晴れて上京。
レコードデビュー直後、瞬く間にスターダムにのしあがった。
あの年の暮れだったか、ヒロシがTV「ザ・ヒットパレード」で歌ってるのを観たときには、本当に驚いたよ。
ビートルズ来日後、時代は確かに彼らを求めていた。
数年後に「ドラゴンズ」は解散したが、ソロシンガーとしてヒロシは、依然この国の芸能界のトップに君臨し続けている。
自分を信じることができた彼は、自らも予想だにしなかった「スーパースター」になったのだ。
サイコは武道館から名古屋に帰ったあと、すぐに「ドラゴンズ」の私設ファンクラブを結成。
デビュー前からヒロシたちの強力なサポーターとなった。
その後、ソロとなったヒロシの、専属スタイリスト、ビジュアル担当として活躍。
ヒロシの新曲の発表ごとに、化粧や奇抜な衣装で世間をあっと言わせ続けている。
最近はヒロシにパラシュートを背負わせて歌わせるという、とんでもないアイデアまで実現した。