「では次の曲です。日本での新曲です。ペイパーバックライター!」 

 

曲紹介が終わると同時に、三人が歌いだす。

 

相変わらずポールのマイクは不安定でぐるぐると動き回っている。

 

ジョージが曲の途中で何度も手を振り、観客を沸かせる。

 

おとなしいと想像していたジョージだが、まるでやんちゃな年下の弟、といった感じだ。

 

ヒロシの隣では、まだ男性ファンが叫び続けていた。

 

「いいぞ、ビートル!」

 

曲を終えた四人に、そう声をかける。

 

その前方には、泣きながらハンカチを振り続ける女性、それを見て渋い表情を浮かべる中年男性がいた。

 

チケットが取れないファンが日本中にいるというのに、観客席には明らかにビートルズファンでない年配の会社員も目立った。

 

おそらく仕事関係で闇チケットがまわってきたのだろう。

 

「ありがとう、ありがとう!」

 

ポールが大きな声で観客席に呼びかけた。

 

「このマイクもあと少しの辛抱だ。」 

 

終始動き回ったマイクスタンドを両手でしっかりにぎり、ポールがそれを見つめる。

 

「次の曲は、最後の曲です。」

 

 腕時計を見ながらあっさりとポールが言う。

 

「僕たちは戻らなきゃならない。」

 

「もう終わりか・・。」

 

俺は意外な感じがした。

 

そして「観客のほとんどはこれで終わりだなんて、わかってないだろうな」と思った。

 

語りかけるポールに対し、会場中から声がかかる。

 

「次の曲にはぜひ皆さんも参加してください。手を叩いたり、足を踏み鳴らしたり、何でもいいからね。ではみんな、またいつか会いましょう。」

 

少し寂しげな表情をしたあと、ポールは突然絶叫した。

 

最後の曲「アイムダウン」だ。

 

典型的なロックンロールは、その短いコンサートを締めくくるのにふさわしかった。

 

 

ジョージが楽しげに腰を落とし、チャックベリースタイルでギターを弾く。

 

リンゴは最後まで無表情だったが、激しくドラムを叩いた。

 

そしてジョン。

 

ジョージとマイクを分け合いながら、ポールの絶叫にあわせ、コーラスをした。

 

純粋に音楽を楽しむ四人の若者が、確かにそこにいた。