サイコはそのとき、無意識に立ち上がっていた。
前の曲、「彼氏になりたい」のジョンとポールの様子を見つめるうち、どういう訳か、二人に手を振りたくなったのだ。
立ち上がって、「ジョン! ポール!」と叫ぶサイコに、ガードマン二人が駆け寄る。
「こらお前、立っちゃ駄目だ、立っちゃ!」
「いいでしょ、立つくらい。どうして素直になっちゃ駄目なわけ、ねえ!」
「お前、会場からつまみ出すぞ!」
「何ふざけたこと言ってるの、あなた。同じ日本人じゃないよ!!」
サイコがかっとなって叫んだまさにその時だった、ジョンがサイコに向かって手を振ったのは。
「ほら、席に座るんだ。」
「ジョン・・・。」
走りよったガードマンに、強引に席に座らされたサイコは、そうつぶやきながら、ただステージ上のジョンを見つめた。
「ワン、ツー、スリー、フォー」
ジョンのカウントのあと、三人の美しいハーモニーが響いた。
「ひとりぼっちのあいつ」。
突然のイントロに場内はまた興奮に包まれた。
曲紹介のときのふざけぶりとは一転して、ジョンはクールな表情で歌いあげる。
「自分のことを歌うのさ。」
俺は、ヒロシにそう話し掛けたジョンを思い出す。