コーラスで参加するジョンとポールはやけに楽しそうだった。
ジョンはふざけて体を揺すりながらギターを弾いている。
レコードと比較してのろいテンポで演奏される曲もあったが、これは軽快なロック、そのものだ。
あっという間に曲が終わり、ジョンがすかさず続ける。
「サンキュー、リンゴ。さて次の曲は、この前この国でもシングルにもなった・・、あれ、ちょっと待って、ひょっとしてなってないのかな。」
ジョンはポールとジョージの方をわざと考え込んだような表情をして見つめる。
「曲名は・・・」
と小さな声でつぶやき、ふと視線を動かし、スタンド一階席のあたりをしばらくじっと見つめた。
するとその直後、
「あー、あー!」
と奇声を発して、視線の先に右手を大きく数回振った。
ジョンの意外な行動に、観客は一斉に声をあげる。
ジョンがスタンドに手を振ったのは、この日これが最初で最後だった。