歌い終わったポールに対する大歓声が続く。

 

女性ファンが「ポール、元気ー?」と泣き叫ぶ声が聞こえる。

 

俺が見る限り、ポールは元気そうだ。

 

これまで憮然とした表情でただドラムをたたき続けるリンゴに対しても、「リンゴー!」という叫び声がスタンドのあちこちであがる。

 

サイコの横には、高校生と思われる制服姿の女性二人が座っていた。

 

コンサートが始まった時から、二人はしくしくと泣いている。

 

ハンカチを握り締め、涙をぬぐいながら、二人はステージに向かって手を振り続けていた。

 

サイコも涙をこらえながら、黙ってステージを見つめていた。

 

大好きな「イエスタデイ」をポールが歌ってくれたことに、彼女は素直に感動していた。

 

「どうも、ありがとう。曲を続けます。」

 

早口でポールが曲紹介に入る。

 

「いたって単純なタイトルの曲です。タイトルは、リンゴー!」

 

ポールの叫び声の後、武道館はその日一番の大歓声に包まれた。

 

「リンゴー、リンゴー」の大声援だ。

 

警備陣の怒号もそれにかぶさって聞こえる。

 

リンゴがマイクの位置を少し調節すると、すぐに曲が始まった。

 

「彼氏になりたい」。

 

相変わらず笑顔がないリンゴだが、よく通る声で絶唱している。

 

 

間奏に入る際、「オーライ、ジョージ!」と大声で叫ぶ。

 

「結局リンゴとは話ができなかったな。」

 

俺は少し残念な思いにとらわれた。