五曲目の「ベイビーズインブラック」ではジョンとポールが同じマイクを分け合って歌った。
雑誌の写真で何度も見た光景だ。
間奏の部分では、ポールはベースを抱えながら一人ステージでワルツを踊った。
どこかにダンスの相手がいないかな。
そんな寂しげな雰囲気が感じられる。
六曲目は「アイフィールファイン」。
「デイトリッパー」といい、この「アイフィールファイン」といい、ジョンの歌う曲にはイントロが印象的な曲が多い。
ギターを弾くジョージが、歌うジョンの方をにこにこしながら、半分からかうような表情で眺めている。
それが終わるとジョージがゆっくりとした英語で次の曲の紹介を始めた。
「次の曲は、えっと、ヘルプ・・。」
いっせいに歓声があがるが、ジョージがそれをさえぎるようにセリフを続けた。
「LPヘルプに入っている曲です。曲名はイエスタデイ。」
いっそう大きな歓声に会場は包まれた。
確かにそのバラードは、当時から既に幅広く支持されていた。
ビートルズに批判的な大人たちからも、「イエスタデイ」だけはいい、という声が多く聞かれていたものだ。
汗だくのポールが、ベースギターを左手の指ではじきながら、歌い上げる。
さすがに会場は少し静かになった。
コンサート前に予想していたよりも、彼らの演奏はよく聞こえる。
勿論過剰な警備陣の規制のおかげであろう。
大観衆が静かに、ポールのバラードを聴いている。
何だかステージの四人もいつもと勝手が違うようだ。