曲が終わると、こんどはジョンが喋りはじめた。

 

「やー、どうもありがとう、みんな。ちょっとマイクの調子がおかしくて・・。

 

ジョンはそう言いながら、自分のマイクスタンドをいじり始めた。

 

ポールも同様に、真剣な表情でスタンドを調整している。

 

「では続けます。次の曲は、あー、次の曲は、えっと、シングルになった、あれ、この国ではシングルになったのかな、たぶん・・。 あー! いったい俺はどうしちまったんだ!」

 

突然ジョンが空を仰ぎ、大声で意味不明な言葉を叫んだ。

 

観客はあっけにとられている。

 

「曲はデイトリッパーです。」

 

すかさずイントロが始まる。

 

 

レコードとはかなり違うデイトリッパーを聴きながら、俺はジョンにすっかり魅了された自分に改めて気づく。

 

あのユニークさはどこから来るんだろう。

 

彼がヒロシに言ったセリフを思い出す。

 

「自分の才能を信じることさ。」

 

ステージには才能を信じきることができた四人の若者がいた。

 

演奏のレベルはひどいものだった。

 

テンポも遅いし、ギターも適当なところが目立つ。

 

「やっぱり午後ふらふら遊んでいたのが響いているのかな。」

 

俺はそう考えながら、しかし観客たちはこの四人と一緒の空間にいることだけで満足してるんだろう、とも思った。

 

記者会見でジョンがこう言っていたのを思い出す。

 

音楽を聴きたけりゃレコードを買えばいい。僕らが観たけりゃコンサートに来ればいい。それだけのことさ。ファンはちゃんとわかってるんだ。」

 

そうだな、ジョン。

 

どうやらそのとおりだよ。