九回の裏、巨人の攻撃は打順よく一番の柴田からだった。

 

「いいぞ、柴田! 粘れ、粘れ!」

 

五十嵐が立ったまま叫ぶ。

 

スーツ姿で、片手にはトランシーバーを握り締めている。

 

周囲から完全にういている巨人ファンだ。

 

「あの刑事さん、何なの。単に野球観たかっただけなんじゃないの?

 

サイコが小声でヒロシに話しかけた。

 

「そうだよね。熱狂的な巨人ファンだな。名古屋駅の中日ファンといい勝負だよ。」

 

ワーっと歓声があがった。

 

粘った挙句、柴田がフォアボールで出塁したのだ。

 

その直後。

 

「マツ、行くぞ!」

 

振り向いた五十嵐がそう叫んだ。

 

「今だ。開けてくれ!」

 

五十嵐はトランシーバーでそう指示を出した。

 

「どうするつもりだろう。」

 

俺には彼の考えが全くわからなかったね、このときは。

 

五十嵐がトランシーバーを切った直後、一塁側ベンチ右端のバットケースのあたりから、制服を着た警官が二名、グラウンドに飛び出した。

 

主審の仲手川はマウンド手前付近まで歩み出て、大きく両手を挙げてタイムを宣した。

 

「ジョン、ジャパニーズポリスだ!」

 

ポールがふざけた調子でジョンに言った。

 

 

「ありゃあ、こりゃまた、あらあら・・。」

 

ジョンはどう訳していいかわからない奇声を発して、両手を挙げて天を仰いでいる。