「恐らくTVで中継されたのかもしれない。簡単に外には出ないほうがいいな。」

 

俺はパニックに陥る寸前だった。

 

もう駄目だ。

 

これは武道館にもたどり着けないかも。

 

この試合がTV中継されてるってことに、もっと早く気づくべきだったな。

 

去年ニューヨークの野球場でコンサートをやったときにね、コンサートの前にさ、ああやってヘリに乗ってね、上空からスタジアムの様子を眺めたことがあるんだ。」

 

俺の心配をよそに、ポールが言った。

 

「へえ、すごいなあ、それ。」

 

ヒロシが目を輝かせる。

 

「あれはすごいコンサートだったね、ジョン。」

 

「ん?」

 

「ほら、シェイスタジアムさ。」

 

 

「ああシェイか。いい思い出じゃないな、ありゃ。」

 

「ま、そうだけどね。」

 

あの日からだな、俺たちのコンサートがナンセンスなものになっちまったのはさ。

 

ジョンはたばこを吸いながら、真剣な表情でつぶやく。

 

イギリス製のたばこのようだ。

 

「おっ、また来たぞ、背番号三が。」

 

真剣な表情の理由は、会話のトピックのせいなのか、或いは試合に集中してたせいなのか、よくわからない。

 

が、ジョンは面白いことに、この試合を結構楽しんでいるようだ。

 

恐らく警察がもうすぐここに来るだろう。

 

下手に動かない方がいい。

 

逃げ切れないと観念した脱獄囚のように、俺はそう考えていた。