「でも、半分あきらめてたのよね。そうしたらさ、歯磨き買ったらチケット当たるかもってのを聞いてね。」
もう何十分も駅に停まらず、銀河十二号は走り続けている。騒がしかった車両も、さすがに静かになってきたようだ。
「そういえば、何かあったっけ、そういうの。レオ歯磨きか。」
「もうその情報を聞いたときから、昭和区中の薬局という薬局に行ったわね、私は。」
レオ歯磨き。
今も昔も、歯磨きメーカーの最大手である。
莫大な費用を払ってビートルズ日本公演のスポンサーになったレオ歯磨きは、歯磨きの箱に付いた「抽選券」を送付することを条件に公演チケットの抽選を実施、当選者は五千名、と、計五回公演の観客の一割を占める、かなりの数であった。
「じゃ、歯磨き買いまくった訳?」
「そうよ。しょうがないからどんどん磨いちゃってさ。すっかり真っ白な歯になっちゃったわよ。ビートルズさまさまね。ほら。」
サイコは「イーッ」と口をあけて、ヒロシに歯を見せてみた。
「ポッキーだらけだよ。」
ヒロシは正直に感想を述べる。