「私、デザインを勉強したい。」

 

高校3年の2学期、サイコは突然そう宣言する。

 

名古屋典型の保守的な親であったサイコの両親は、彼女のこの決意に対し当然猛反対をしたが、そこで賛成にまわったのは3歳上の姉であった。

 

「この子がこれまで自分から何かやりたいなんて言ったことなかったじゃない。どうせ、この子には短大なんて似合わないから、いいじゃない、やらせてあげれば。」

 

フォローなのか、けなしているのかよくわからないコメントだが、ともかくこの姉のサポートにより、最後には両親もあきらめた。

 

高校を卒業したサイコが名古屋駅前のデザイン学校に通い始めた春、ビートルズが6月に来日するとのニュースが一斉に流れる。

 

毎日相変わらずビートルズのレコードを聴いていたサイコにとっては、このニュースはそれまでの人生で最大の衝撃を与えた、と言ってよかった。 

 

彼女は新聞にビートルズの眠たげな顔写真とともにその記事が載っているのを見つけた瞬間、「何が何でも日本武道館に行く」ことを決断する。

 

ちなみに彼女はそれまで、高校の修学旅行で京都、奈良に行った以外、愛知、岐阜、三重の東海三県から出たことはなかった。