サイコは、三歳上の姉がいる二人姉妹の妹として生まれ育った。

 

教師をしていた父親は、二人の姉妹を厳しく育てた。

 

高校から短大に行き、そのまま見合いをしてすぐ結婚、というコースを想定した両親であったが、サイコは高校の半ばころから、突然脱線を始める。

 

きっかけは海の向こうからやってきたロックンロールであった。

 

ベンチャーズ、シャドウズがまずやって来た。

 

聴き慣れないエレキの音に、名古屋の箱入り娘は一発で「アイムダウン」だ。

 

彼女はレコードを集め、学校から帰宅するなり、すぐステレオに直行、そのまま深夜まで繰り返し聴くようになる。

 

しばらくして、ビートルズの衝撃が極東にも押し寄せる

 

最初にビートルズを目撃したのはいつだったか。

 

当時NHKでやっていた「海外の話題」という番組で、英国出身のロックグループで米国は大騒動、といったトピックで30秒程度映像が流れたが、あれが最初だっただろうか。

 

まもなく、ラジオのヒットパレードで、ビートルズの曲が毎週流れるようになる。

 

サイコはその歌声に参った。

 

「こんなに個性的な声をしてる人たちって、いるのかしら。」

 

鶴舞公園の噴水を遠くに望む自宅2階の自分の部屋で、彼女はビートルズの曲に陶酔しつつ、毎日聴き入るようになる。