彼の名前は木村達三。

 

今回のコンサートの招聘先「ジャパンミュージック」の代表者である。

 

ビートルズ日本公演で言うところの、プロモーター、つまり「呼び屋」だ。

 

小学校、中学校と、親の仕事の都合で英国で育った木村は、その英語力を武器に、いまや日本トップのプロモーターに上り詰めようとしていた。

 

ビートルズを呼ぶという「快挙」に成功した彼は、ビートルズ滞在に際し、四六時中彼らに同行し、警察、マスコミ側との折衝、及びビートルズ側の要請を一つ一つ処理していくという、いわば彼らの水先案内人ともなっていた。

 

今回の過剰とも言える警備体制には、木村はいまだ納得していない。

 

次回、いつ日本に来るともわからないビートルズに、是非日本の本当の姿を見せてやりたい。

 

木村は、箱根観光、歌舞伎座訪問、大相撲二所ノ関部屋を訪問し横綱大鵬との面会、芸者を招いての乱痴気騒ぎ等々、いくつかの案を練っていたが、ことごとく警視庁側につぶされていた。

 

結局、コンサート以外はホテルに監禁となり、外から訪問販売者を招待したり(ビートルズは最新カメラやスーツ、それから凧、羽子板等の伝統品を買いあさった)、或いは当時日本の大スターであった加山雄三を招いてのすきやきパーティくらいしか実現できなかった。

 

余談だが、その加山と一緒にビートルズのメンバーは「生卵を食べる」という、初めての経験に遭遇することができた。

 

加山は、生卵のかきまぜかた、黄身にくっついている白い小さな物体をとること、そしてはしの使い方を丁寧に各メンバーに教えた。

 

さすが若大将。