全世界を席捲するロックグループ、ビートルズ。
その当時、彼らのコンサート会場では、どの国でも暴動が起きた。
それらはありのままに、或いは誇張されたニュースとして、この極東の国にまで続々と届いていた。
たとえばこんな新聞見出し。
「ビートルズ公演、観客全員失神で途中中止」
全員は失神しない、いくらなんでも。
「リンゴスター、観客に歌が下手だとしてトマトを投げられる」
真相はわからないが、明らかなでっちあげネタと思われる。
しかし、どの国でもエンターテイメント史上かつてなかった騒動が、この四人組によって繰り広げられていたのは事実だった。
そんなグループがこの国に来る。関係者は大いに頭を抱えることになった。
決定したのは1966年3月。公演は同年6月だ。
この3ヶ月間、日本中がどうする、どうすると、大騒ぎとなった。
世に言う「ビートルズ100日騒動」の始まりである。
中高生を中心にした熱狂的なファン。
彼らは皆、不良のレッテルを貼られ、警視庁から目の敵にされた。
それだけではない。
ビートルズを欧米の悪しき文化による日本の侵略と位置付け、激しい批判活動を展開した政治勢力。
「ビートルズの警備で頭が痛いよ」
当時の首相、佐藤栄作がそう漏らしたのも無理はない騒動だった。