そのとき、レジ奥に置いてある黒い電話のベルが鳴った。
店長が電話をとった途端、受話器越しに、耳をふさぎたくなるような、大きな声が届いた。
「悪い! ちょっと遅れそうだ。道が混んでるんだよ。しかし何でこんなに混んでるんだ、この辺は。米軍がいよいよアフガニスタンに緊急出動か?」
「林、お前、相変わらずよく喋るな。」
「おお、そうか?」
「大丈夫だ。彼女もまだ来てないよ。同窓会準備委員会は始まってないぜ。のんびり来てくれ。」
「ははは、同窓会準備委員会か・・。しかし、本気なのか、彼女の話は?」
「俺もわからんよ。何でもヒロシの強い希望ってことらしい。彼は超多忙なスケジュールを調整してでも決行したがってるってよ。しかも俺たち四人でな。」
「俺だって東京メトロホテル、F&Bマネージャーとして、これでもスーパースターなみに超多忙なんだけどね。」
「ヒロシと比較するな、お前は。」
「しかしニューヨークで同窓会とはね・・。ま、ジョンさんがああなった以上、これは行くしかないか。」
「ああ、そうさ。行くしかない。」
「しかし久しぶりだな。俺たち4人が揃うのも。1966年6月、お尋ね者メンバーだね。」
「そういう言い方やめろ。」
このとき、レコード店入口の手押しドアが勢いよく開き、外の寒気と一緒に、スタイルのいい女性が店内に一人入ってきた。
「翔さん、お久しぶりです!」
そこには、赤のロングコートがよく似あう、サイコが立っていた。
完
〈参考文献〉
* ミュージックライフ ビートルズ来日特別記念号 シンコ―ミュージック
* ビートルズを呼んだ男 伝説の呼び屋 永島達司の生涯 野地秩嘉 幻冬舎文庫
* ザビートルズソングブック ソニーマガジンズ
* 我が名は、ジュリー 沢田研二 玉村豊男編 中央公論社
* ビートルズ アンソロジー ザビートルズクラブ リットーミュージック
* ビートルズ・レポート 話の特集 東京を狂乱させた五日間 ビートルズ・レポート復刻委員会 WAVE出版
〈参考映像〉
* ビートルズ武道館コンサート ヴァップ