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じめにされていて、いつしか、男達の身体の影にうずもれるようにして、姿が見えなくなった。

 ……やめろ、その方をお放ししろ……その方は……

 圭亥と呼ばれた男はまだ胸で叫んでいたが、首から上だけになった顔では、唇が痙攣するだけだった。

 見開かれた目は、男の屈強な肩に担がれていく娘の身体を、執念に動かされるように執拗に追っていた。

 ……やめろ、その方は……倭奴(わぬ)の姫……桐瑚さ、ま……

 抗うよりも、身をゆだねるほうが楽だと知っていたので、高比古は、圭亥という男の最期の記憶に翻弄されるがままになっていた。――が、その名を聞くなり、我に返った。

(はあ、桐瑚?)
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 圭亥は、末期の血走らせた目で娘の行方を追う。高比古も、ことの結末を見届けようと圭亥と同じものを見ようとした。だが、もう遅い。とうとうそこで光が途絶えた圭亥の目は、その続きの光景を見せてはくれなかった。耳の力も、いつのまにか遠のいている。あるのは、静寂のみ――。ただし、静かなのは、ほんの束の間だ。

 死者を死者と成した、もっとも強烈な最期の苦しみを伝えると、憑依された高比古を次に襲うのは、死者が生きた時間分すべての記憶だ。

 死を「無に還る」と語る者がたまにいるが、そんなものではないと、高比古は思っていた。むしろ、混乱だ。「無」だとかいう、いかにも静かそうなものでは決してなかった。

 命の緒が断ち切られると、記憶は、時という糸を断ち切られた玉飾りのように、古いものも新しいものもばらばらに散らばって、あれはこうだった、あれはつらかったと、一緒くたに騒ぎはじめる。

 興味のあったこと、好きな女への想い――。膨大な記憶は、最期の恐怖と一緒に解き放たれるが、一人歩きできるものでもなく、同じ場所で、次から次へと弾け続ける。

 他人の人生という記憶の大津波に襲われるようなもので、流されるままに高比古は男の記憶の波に飲まれて、渦があれば渦に巻かれ、一緒に流された大きな岩じみた苦しみがあれば、抗うことなくぶつかって跳ねる。


 ……わかったよ、つらいんだろ? 

 いい女だったんだろ? 苦しいんだろ?

 わかったから、静かにしてくれよ。……早く、忘れてしまえよ。


 記憶の大波が引いた後、高比古は、砂の上に大の字になっていた。

 頭上では、すべてを受け渡した死霊が光の霧に姿を変えていて、苦しみを肩代わりした高比古を癒すようにも、光色をした粉を降り注がせる。

『ありがとう、ありがとう……』

 でも、その光が弱った身体を癒すことはなかったし、感謝を告げられたところで、散々暴行を受けた後のような気分でしかない今は、単にありがた迷惑だ。

(わかったよ。いけよ。もういいから)

 追い払うようにいって、天の世界へと遠ざかる光の霧を、力尽きた目で見送った。

 身体も頭も、くたびれ果てていた。それなのに、頭は休もうとしなかった。

(桐瑚……倭奴の姫? 倭奴……)

 倭奴というのは、北筑紫にある小国の名だ。領土は大きくないが、隆盛を誇る宗像の陰に隠れつつ、海民を従えて韓国(からくに)や大陸へ渡る船を出す。

 ふいに、誰かの声が蘇った。

『でも……宗像のことを気に食わないと思ってる連中はいるよ。たとえば、倭奴とか』

『知ってるだろ? 倭奴は、大和の女王の第二の故郷だ』

 しかし、高比古は急なめまいに襲われた気分だった。

(これは、誰のいった話だ? おれの記憶か。それとも、圭亥って奴の記憶か?)

 頭の中には今、圭亥という男の記憶が氾濫している。

 最近たしか、誰かと、倭奴という名の国の話をした。だが、その時に聞いた話とは比べ物になら