Life in the Lone Star State -54ページ目

シンジケートローン契約(Vol.24)

第24回も引き続きCondition Precedentの各論です。

7. MACが生じていないこと

MACとはMaterial Adverse Changeの略語で、一般にMAC(マック)と言われています。「重大な悪影響を及ぼす変更」ということですが、通常CPの1つとして「MACが発生していないこと」が規定されます。(Repのなかで規定される場合もありますが、Rep違反がないことがCPに規定されるので効果は基本的に同じです。)

LSTAのサンプル例文を引用します。

Since _____, 2009, there has been no material adverse change in the business, condition (financial or otherwise), assets, operations or prospects of the Borrower and its Subsidiaries, taken as a whole.

金融機関が借入人に対して融資を行う場合、まず与信審査を行い、その後融資契約を締結した後に融資実行という流れを経るわけですが、当然与信審査を行った時点と融資実行の時点ではタイムラグが生じます。そしてその間に借入人サイドに信用不安を惹起するような事象が発生していたとすると、そのまま融資を実行するわけにもいきません。そこで「与信審査の時点(厳密には、与信審査の段階で使用した借入人の最新の財務書類の対象事業年度の終了時点ということになると思いますが)以降」、借入人(及びその子会社)に関してMACが発生していないことと時点を明確にして規定するのが最もスタンダードなMAC条項です。

この比較対象する時点をどこに定めるかというのは実はMAC条項の肝にもなるところで非常に重要です。

仮に比較する時点を定めなかったとすると、ある事象が発生した場合に、それの事象が単体で「重大な悪影響」を及ぼすものか否かという判断がされることになります。すると、例えば借入人の売り上げを10%低下させる事象が5つ時点を異にして発生したという状況を考えた場合、それ1つだけをとって見れば「重大」とまではいえないとしても、それが5回発生したとすると当初から売り上げが3,4割落ちていることになり、これは「重大」といえる変更になっているかもしれないわけです。このように、重大とまでは言えない複数の事象の積み重ねも明確にカバーするには、比較対象時点を明記するべきということになります。

他方、借入人サイドとしては、特に期間の長いローンの場合に、将来何年間にもわたってMACを発生させないようにすることは、なかなか確実にできることでもありませんから、なんとか絞りをかけたいと考えます。具体的には、まず「各事業年度の計算書類を貸付人に提出した日以降」という時点の設定をすることが考えられます。こう規定すると、「重大性」の認定をする際の根拠となる事実が過去1年以内に起こったものだけに限定されてしまい、いったん少し悪い事象が起きても、計算書類を提出すればそこでリセットされ、またゼロの状態からのカウントになってしまいます。つまり1年分しか累積しないということです。

さらに力の強い借入人の場合、直近の事業年度の末日以降、融資契約のクロージング日までの間にMACが発生していないことという内容で貸付人と合意するケースもあるようです。つまり、これだとクロージングまでにMACが発生した場合しかカバーされないことになり、それ以降にMACが発生したとしても貸付人としては不実行という選択は取れないということになるわけです。

理論的にはMACが発生した場合には貸付人は貸付実行義務を負わないわけですが、「重大な悪影響を及ぼす変更」とは一体何がこれに該当するのかという明確な基準がないため、実務上はMAC条項を理由に融資を実行しないというのはなかなか勇気のいる決断のようです。

例えば、アメリカのある判例ではMACについて次のように述べています。

A material adverse change clause is a provision that protects against the occurrence of “unknown events that substantially threaten the overall earnings potential of the target in a durationally significant manner”(In re IBP S'Holders Litig. v. Tyson Foods, 789 A.2d 14(Del. Ch. 2001))

ポイントは2つで、 “unknown events”でなければならないという点と、 “durationally significant”でなければならないという点です。従って、クロージングの時点で認識されていた事情であればMACには含まれませんし、一時的に悪影響があったとしても、一定の継続性がなければやはり該当しないということになるようです。とは言っても、これだけでもやはり個々の事例がどうかという判断は難しいところです。

また、例えば、借入人に固有の理由ではなく、金融市場や経済環境の悪化により社会全体が不況になって、それに起因してある借入人にMACに該当するような事象が発生した場合に、MAC条項を理由に融資を拒否することができるかという点も議論があるようです。この点に関する判例は、結論が割れているようですが、実務上は、明示的に除外規定を置いていない限りは、一般的な事象もMACに含まれるという前提で動いているようです。

日本でもMAC条項というのは融資契約に限らず企業間の取引ではよく規定されている条項だと思いますが、なにがMACにあたるのかという議論は裁判上も実務上もまだ余り深くはなされていないように思います。誰かがMAC条項を発動させて争いを起こしてもらうと、判例法上大きな進展が見られて実務家としては有り難いですが、やはり発動する当事者はリスクが大きいので、現時点では伝家の宝刀的な条項になってしまっているのではないかという気もします。