シンジケートローン契約(Vol.25)
第25回はCP(Condition Precedent)の最終回です。
8 Promissory noteの提出
Promissory noteとは通常「約束手形」と訳されますが、日本の手形法上の約束手形とは少し性格が異なります。UCCでは次のように定義されています。
“Promissory note” means an instrument that evidences a promise to pay a monetary obligation, does not evidence an order to pay, and does not contain an acknowledgment by a bank that the bank has received for deposit a sum of money or funds.
つまり、「金銭債務の支払いを約束する書面」ということです。もちろん日本の手形法上の約束手形も手形債務という一種の金銭債務の支払いを約束する書面ですが、Promissory noteには約束手形のような様式性は求められていません。また、日本の証書貸付けの際に使用される金銭消費貸借契約証書も金銭債務の支払いを約束する書面であり、 “Promissory note” という概念はその両方を包摂するような概念だと考えた方がイメージが掴みやすいのではないかと思います。
そして、アメリカでは金融機関が融資を行う際には、借入人からこのPromissory noteの提出を要求するのが伝統的な実務だそうです。日本の銀行実務でも貸付を行う際には、証書貸付の場合には金銭消費貸借証書を徴求しますので、その点では似通っていると考えてよいと思います。
ちなみに、シンジケートローンの実務において、タームローン型のローンの場合には、融資額をそのままPromissory noteに記載すればいいわけですが、リボルビング型のローンの場合は、Promissory noteに別表を添付して(Grid noteと言うそうですが)、具体的にいつ幾ら融資をしたという記録をつけて、その記録の内容が、融資を行ったという事実の “Prima Facie” Evidenceになるという合意を本体の融資契約のなかに規定しておくというやり方を取っているそうです。この場合、Promissory noteの冒頭に記載される金額は極度額の満額ということになります。
このように、シンジケートローン等のスキームが複雑な融資を行う場合に、本体の融資契約に加えて、個別の融資に関して別途Promissory noteを徴求するというのは、日本とは少しプラクティスが異なる点です。
このPromissory noteを徴求する理由としては、①貸付実行の強い証拠となる(prima facie evidenceとなり、立証責任が転換する)、②summary enforcementと呼ばれる簡易の執行手続きが利用できる、(③加えて、かつてはFirst Reserve Bankに対して貸付債権を債権質として提供する場合には、noteを交付する必要があった)ということが挙げられています。こういった理由から、本体の融資契約に加えて、Promissory noteを徴求することには一定の意味があるということのようです。ちなみにPromissory noteの場合は、日本の約束手形のように原因債権と別個の手形債権が発生するといった法的効果はありません。
日本の銀行実務上は、借入人と銀行取引約定書を締結した上で、証書貸付の場合には金銭消費貸借契約を締結し、手形貸付の場合には約束手形の振り出しを受けることにより融資を行うというのが一般的です。手形貸付と証書貸付をどのように使い分けているかについて実務の詳細は知りませんが、関沢正彦・中原利明「融資契約」によれば、融資側から見た手形貸付のメリットとしては、①原因債権と別途に手形債権が発生する、②手形訴訟が利用できるので、債務名義の取得が容易、といった点があり、借入人側から見たメリットとしては、③印紙税が金銭消費貸借契約よりも低額である、といった点があげられています。
いずれにしても、証書貸付と手形貸付とは異なる融資手法と考えられており、金銭消費貸借契約を締結した上で、さらに約束手形も徴求するといった実務は日本にはないと思います。その理由としては、①貸付の事実の証明という点では、金銭消費貸借証書を徴求しておけば十分であること、②日本法下の手形は厳格な要式証券で、変動金利等複雑な融資のスキームに対応できないこと、③金銭消費貸借証書も約束手形も額に応じて印紙税がかかること等が考えられます。
また、日本のシンジケートローンの実務では、融資の個別の実行の際にも別途金銭消費貸借証書のようなものは徴求せずに、貸付実行の申込書と領収書の2つを使用しているのが現在の実務です。例えばリボルビング型のシンジケートローンというのは一定の融資枠の範囲内で一定の期間内に自由に借入れが可能という契約で、これ自体は金銭消費貸借契約ではなく、(法的位置付けには議論がありますが)金銭消費貸借の予約的な正確をもった契約です。そして、実際に借入の申込みを受けて決められた範囲で融資を実行するという個別の実行がまさに金銭消費貸借にあたるわけですから、個別の実行ごとに借入を証明する書類として金銭消費貸借証書を徴求することには一定の合理性があるわけです。しかし実務上そうしないのは、印紙税の問題があるからです。
日本の場合、貸付証書を作成した場合、原本に対して貸付額に応じた印紙税が発生します。そこで、その課税を免れるために申込書と領収書という形で(さらに原本を交付せずファックスでやり取りするという形を取って)課税を回避しているのです。
この点、アメリカの場合には、ほとんどの州ではStamp Taxがかからないので、Promissory noteを徴求することも実務的な障害は少ないということのようです。ちなみに、アメリカでもフロリダ州等幾つかの州ではStamp Taxが課されるようで、そのような場合には、州外に出て調印手続きをするといったことで課税を回避しているという実務もあるようです。(そういえば日本で実務をやっていたときにも、韓国まで行って調印してくれば印紙税がかからないのではないかという議論をしたことを思い出しました。)
これまで取り上げた事項以外にも様々なCPはありますが、主なものは取り上げたと思いますので、これでCPについては終了です。
8 Promissory noteの提出
Promissory noteとは通常「約束手形」と訳されますが、日本の手形法上の約束手形とは少し性格が異なります。UCCでは次のように定義されています。
“Promissory note” means an instrument that evidences a promise to pay a monetary obligation, does not evidence an order to pay, and does not contain an acknowledgment by a bank that the bank has received for deposit a sum of money or funds.
つまり、「金銭債務の支払いを約束する書面」ということです。もちろん日本の手形法上の約束手形も手形債務という一種の金銭債務の支払いを約束する書面ですが、Promissory noteには約束手形のような様式性は求められていません。また、日本の証書貸付けの際に使用される金銭消費貸借契約証書も金銭債務の支払いを約束する書面であり、 “Promissory note” という概念はその両方を包摂するような概念だと考えた方がイメージが掴みやすいのではないかと思います。
そして、アメリカでは金融機関が融資を行う際には、借入人からこのPromissory noteの提出を要求するのが伝統的な実務だそうです。日本の銀行実務でも貸付を行う際には、証書貸付の場合には金銭消費貸借証書を徴求しますので、その点では似通っていると考えてよいと思います。
ちなみに、シンジケートローンの実務において、タームローン型のローンの場合には、融資額をそのままPromissory noteに記載すればいいわけですが、リボルビング型のローンの場合は、Promissory noteに別表を添付して(Grid noteと言うそうですが)、具体的にいつ幾ら融資をしたという記録をつけて、その記録の内容が、融資を行ったという事実の “Prima Facie” Evidenceになるという合意を本体の融資契約のなかに規定しておくというやり方を取っているそうです。この場合、Promissory noteの冒頭に記載される金額は極度額の満額ということになります。
このように、シンジケートローン等のスキームが複雑な融資を行う場合に、本体の融資契約に加えて、個別の融資に関して別途Promissory noteを徴求するというのは、日本とは少しプラクティスが異なる点です。
このPromissory noteを徴求する理由としては、①貸付実行の強い証拠となる(prima facie evidenceとなり、立証責任が転換する)、②summary enforcementと呼ばれる簡易の執行手続きが利用できる、(③加えて、かつてはFirst Reserve Bankに対して貸付債権を債権質として提供する場合には、noteを交付する必要があった)ということが挙げられています。こういった理由から、本体の融資契約に加えて、Promissory noteを徴求することには一定の意味があるということのようです。ちなみにPromissory noteの場合は、日本の約束手形のように原因債権と別個の手形債権が発生するといった法的効果はありません。
日本の銀行実務上は、借入人と銀行取引約定書を締結した上で、証書貸付の場合には金銭消費貸借契約を締結し、手形貸付の場合には約束手形の振り出しを受けることにより融資を行うというのが一般的です。手形貸付と証書貸付をどのように使い分けているかについて実務の詳細は知りませんが、関沢正彦・中原利明「融資契約」によれば、融資側から見た手形貸付のメリットとしては、①原因債権と別途に手形債権が発生する、②手形訴訟が利用できるので、債務名義の取得が容易、といった点があり、借入人側から見たメリットとしては、③印紙税が金銭消費貸借契約よりも低額である、といった点があげられています。
いずれにしても、証書貸付と手形貸付とは異なる融資手法と考えられており、金銭消費貸借契約を締結した上で、さらに約束手形も徴求するといった実務は日本にはないと思います。その理由としては、①貸付の事実の証明という点では、金銭消費貸借証書を徴求しておけば十分であること、②日本法下の手形は厳格な要式証券で、変動金利等複雑な融資のスキームに対応できないこと、③金銭消費貸借証書も約束手形も額に応じて印紙税がかかること等が考えられます。
また、日本のシンジケートローンの実務では、融資の個別の実行の際にも別途金銭消費貸借証書のようなものは徴求せずに、貸付実行の申込書と領収書の2つを使用しているのが現在の実務です。例えばリボルビング型のシンジケートローンというのは一定の融資枠の範囲内で一定の期間内に自由に借入れが可能という契約で、これ自体は金銭消費貸借契約ではなく、(法的位置付けには議論がありますが)金銭消費貸借の予約的な正確をもった契約です。そして、実際に借入の申込みを受けて決められた範囲で融資を実行するという個別の実行がまさに金銭消費貸借にあたるわけですから、個別の実行ごとに借入を証明する書類として金銭消費貸借証書を徴求することには一定の合理性があるわけです。しかし実務上そうしないのは、印紙税の問題があるからです。
日本の場合、貸付証書を作成した場合、原本に対して貸付額に応じた印紙税が発生します。そこで、その課税を免れるために申込書と領収書という形で(さらに原本を交付せずファックスでやり取りするという形を取って)課税を回避しているのです。
この点、アメリカの場合には、ほとんどの州ではStamp Taxがかからないので、Promissory noteを徴求することも実務的な障害は少ないということのようです。ちなみに、アメリカでもフロリダ州等幾つかの州ではStamp Taxが課されるようで、そのような場合には、州外に出て調印手続きをするといったことで課税を回避しているという実務もあるようです。(そういえば日本で実務をやっていたときにも、韓国まで行って調印してくれば印紙税がかからないのではないかという議論をしたことを思い出しました。)
これまで取り上げた事項以外にも様々なCPはありますが、主なものは取り上げたと思いますので、これでCPについては終了です。