Life in the Lone Star State -122ページ目

株券電子化(いまさらですが)

今日は株券の電子化について。

たまには日本法のキャッチアップもということで、株券の電子化に伴う株式担保について以下の文献を日本から取り寄せて読んでみました。

・葉玉匡美「シンジケート・ローンにおける振替株式の担保」NBL892号
・全国銀行協会「シンジケート・ローン等における証券担保利用に関する研究会 報告書」
・金川創「振替制度下での買収ファイナンス」金融法務事情1861号

いずれも半年以上前の文献なので、新しい記事が出ているかもしれませんが、海外にいてこれ以上は検索困難ということで。

2009年1月から「株式等の取引に係る決済の合理化を図るための社債等の振替に関する法律等の一部を改正する法律」(以下「決済合理化法」)が施行されたことにより、上場会社の株券が廃止され、株式の取引については、全て口座間で決済されることになりました。実務上、様々な場面でインパクトのある改正ですが、今回取り上げるのは、株式担保の場面です。

銀行が株式を担保に取る場合(今回は質権を設定する場合を想定しています。譲渡担保権はまた別途。)、株券の現物の交付を受けて質権を設定し、その株券の占有を継続することにより対抗要件を満たすというのがこれまでの実務のスタンダードでした。シンジケート・ローンのように複数の質権を同順位で設定する場合には、各質権者の代理人としてのエージェントが各債権者に代わって質権の交付を受けることで同時設定が可能となり、メザニンファイナンスのように後順位の質権を設定する場合には、エージェントがまず先順位の債権者のために交付を受けて占有を開始し、その後、質権設定者からの「指図による占有移転」の方法により後順位の質権者のための交付を受け、占有を開始するという方法で行われていました。

今回の決済合理化法の施行に伴い、株券の交付に代えて口座の振替という方法が質権の設定方法として定められたわけですが、上記の記事によれば、複数の質権者がいる場合には、共有名義の口座を開いてその口座の質権欄に株式を振り替えることにより設定するという方法が実務の大勢となっていく感じです。

そして、具体的な権利の内容(同順位か、準共有か、異順位か)については、当事者間の合意によって決まる(つまり、共同名義だからという理由で必ず準共有になるわけではない)という考え方が多数説だということです。

以下、個人的な感想を少し。

・質権の準共有はその有効性について学説上やや疑義があると言われており、それもこれまでの実務で質権の準共有が敬遠されてきた理由の一つです。決済合理化法により、共有名義口座方式=準共有と解釈されるリスクがあるとすると、法的安定性を欠くことになります。ただ、立法担当者の葉玉先生も当事者の合意によって決まると仰っていることですし、とりあえず実務はその方向で動いているんでしょうね。

・担保実行の場面では、特に異順位での質権設定を合意していた場合に、その合意が物権的な拘束力を持たないという点がこれまでの実務と異なる点です。したがって、その合意は裁判所を拘束しないため、法定実行の場合には、各質権者に対して、債権額に応じて按分に配当されることになってしまいます。もちろん債権者間協定で、先順位担保権者の債権から充当されるように再分配の規定は置かれるでしょうが、後順位担保権者が倒産したような場合には、先順位担保権者はいったん後順位担保権者に配当されてしまった債権を回収できないことになり、これはつまり後順位担保権者のクレジットリスクを負うということになります。通常、金融機関が潰れることはあまり想定されていないかもしれませんが、メザニンやジュニアで入ってくる金融機関のなかには危ないところもあるかもしれませんので、今後ローンの組成段階では参加行のクレジットリスクについても要注意ということでしょうか。仮にシニア、メザニン、ジュニアという3階層でファイナンスを実行した場合に、この3階層の債権者が全て物権的には同順位になってしまうというのは、シニアにしてみれば何となく気持ち悪いですね。ちなみに、アメリカは今年1年で既に98の銀行が潰れたそうで、日本も金融機関が潰れるのはそう珍しくない時代が来るかもしれません。

・質権の移転については、質権者の一部が変わるため新たに口座を新設してそこに振り替えるという方法を取ることになるようです。口座開設の手続き(費用と日数)がどの程度の手間なのか次第でしょうが、共有名義口座の変更となると全当事者を巻き込む手続きになるので、(エージェントが代理でやるとしても)移転の手続きはやや面倒な感じがします。譲渡人、譲受人間だけで手続きができると、セカンダリーマーケットの発展にも貢献すると思うんですが。

・これまでは、契約締結日又は融資実行日と株券の交付日(質権設定日)を同日にするのが実務のスタンダードだったと思います。この手続きは、当日、株券を交付するだけでいいので、実務的には結構簡単でした。他方、口座の振替の場合、クロージング日に確実に振替えが実行されるような制度上の担保はあるんでしょうかね。先日付指定でやることになるのではないかと思いますが、前日や当日になって急にクロージングが1日伸びるとかっていう場合にも柔軟に対応してもらえるんでしょうかね。