インサイダー取引規制の是非 | Life in the Lone Star State

インサイダー取引規制の是非

今日はWSJよりこの記事を。

Learning to Love Insider Trading

先週末の記事ですが、ちょっと気になって読んでみたところ興味深い内容だったので書き留めておきます。

このところこちらの紙面を騒がせてるのが、Galleon GroupというファンドのトップのRaj Rajaratnamという人で、この人を含むファンド関係者が巨額のインサイダー取引を行ったことで逮捕され、その後の裁判の動向が注目されています。

そんななか、WSJは「インサイダー取引は本当に規制しなければならないのか?」という趣旨の記事を掲載しています。

インサイダー取引が規制されるのは、「会社関係者・情報受領者は、投資判断に影響を及ぼす情報を容易に知り得る立場にあり、当該事実を知って公表前に有価証券の取引を行えば、一般投資家との間で不公平を生じ、証券市場の公正性・信頼をそこなうため」(長島・大野・常松法律事務所編「アドバンス金融商品取引法」より)と一般には説明されています。そして、一般投資家の証券市場に対する信頼が維持されなければならないのは、一般投資家の証券市場への参入を促すことが国の経済にとってプラスの効果があるからということだと思います。したがって、一般投資家の参入が期待されていない市場では、インサイダー取引を規制する必要はないという結論になります。(この点、黒沼先生のブログ記事が参考になります。)

さて、上記のWSJの記事では、インサイダー取引に関して一律の規制を設けることは次の弊害があると指摘しています。

第一に、インサイダー取引を規制することにより、会社の株価がその会社の実際の価値と乖離してしまうという点です。例えば、ある製薬会社の新薬が認可されたという重要事実が発生した場合、その時点でその会社の現実の価値は上昇しているはずですが、その重要事実が公表されるまでは実際の株価は上昇しません。その結果、マーケット全体で見た場合、一般投資家は実際の価値と異なる価値を表示している株価を前提に投資判断をしてしまうため、それが誤った判断になってしまう可能性があるという弊害です。

第二に、インサイダー取引で規制されるのは、insider tradingだけであって insider “non-trading” は規制されていないという点です。上記の製薬会社の例で言うと、新薬が認可されたという情報を入手した内部者がその製薬会社の株式を購入することは禁止されますが、他方で、ちょうどそのタイミングで製薬会社の株を売却するつもりだった内部者がいたとしたら、その内部者は当該内部情報を知ったことにより、株式の売却を中止したとしても、それは処罰の対象にはなりません。いずれの行為によっても内部者は内部情報を知ったことにより利益を享受しているわけですが、前者だけが処罰されて後者はお咎めなしというのでは規制としては構造的に不十分であるという趣旨です。

アメリカでは、インサイダー取引はそもそも規制する必要はないという意見が主に経済学者から主張されているようです。その場合、インサイダー取引によって内部者が利益を得たとしても、それは役員のインセンティブということで報酬に近い位置付けで考えればよいということのようです。

また、法学者のなかには、会社ごとにその会社の内部規則(by-laws)において、禁止されるインサイダー情報の範囲を規定すれば十分で、法で一律に規制するべきではないという意見もあるようです。これは、インサイダー取引規制は一般投資家の証券取引に対する信頼をどこまで保護するかという問題であり、言いかえればその会社がどのような資本政策を考えているか(一般投資家からの投資を望んでいるのか、プロの投資家からの投資を望んでいるのか)によってその規制すべきインサイダー取引の範囲は変わってくるものであるという考え方のようです。

日本では、①インサイダー取引による利益を役員の報酬の一部とする考え方はまだ受け入れられないように思いますし、②アメリカと違って会社の内部規則は会社の外部の人に対しては拘束力は及ばないことから、会社の内部規則でインサイダーを規制するのでは不十分だと思いますので、上記いずれの考え方も取り難いと思います。ただ、インサイダー取引規制の本質を考えるにあたっては非常に示唆に富む記事でした。