夢想家 1062。 | ネズラー通信編集部のブログ

ネズラー通信編集部のブログ

ネズラー通信編集部の公式ブログです。

水彩。



毛屋がオープンして1年。








まだ、
誰もお客は来ない。

でも
私は毎日、
仕入れ、
支度をする。

そんな日々。


ある日、
店舗の冷蔵庫の下へ
小さなネズミが走って行くのを観た。

飲食店に
ゴキブリやネズミはつきものだ。

ただ、
殺虫剤や殺鼠剤で
殺すのは
私の主義ではないので、

籠型のネズミ捕りを使って
明くる日、
籠の中に小さなネズミが
こちらを向いていた。


あら
かわいらしい。


ハツカネズミだ。

この小さな生き物を
叩いたり、
水に漬けたりは私には出来ない。

お客も来ないことだし、
店内を見回す。

ネギ、
私が揚げた天かす、
タコ・・・

小さなネズミが食べるには
無理なものばかりだ。


そうだ、

私は
小麦粉で
小さな団子を造って、
籠の中の小さい坊やにあげてみた。

最初は
私の顔と
その団子を見比べていたが、
やがて
一つ団子を食べると
もっと、

欲しがった。

今日のお客はこの子ね。


でも
野生の生き物。

たまたま人が開拓した場所に
住んでいた先住者のネズミかもしれない。


私は
野に放つことにした。


毛屋の鉄板の向こう側から、
ネズミがこちらを向いている。

夢想家 1062 ky ネズラー通信(C) 山本京嗣



私は


『おいき。』


声をかける。


なかなか
小さなお客は立ち去らない。


『そこにいたら、
 カラスに捕まるよ。
 さっさとおいき。』


そうして、
ネズミは立ち去った。

走り去るとき、
一度だけ、
私の顔を振り向いて。

夢想家 1062-1 ky ネズラー通信(C)