夢想家 963。 【建築基準法】 | ネズラー通信編集部のブログ

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シャーペンB。




祖母のために
何かしたいと思った。

祖母は
私の育ての親である。

そんな
祖母も年老いて、
病気がちになる期間が増えてきた。

祖母は昔は
散歩や
ちょっとした里山散策が好きだった。

いつまでも
乙女のような心を持った人だ。

祖母のために
何かしたい。


祖母が住む家は、
旧家のお屋敷だったが、
今時、
こんな施工法はなく、

柱が丈夫だからよいものの、
耐震性や
通気性などを鑑みると、
素人の私は
少し心配だった。



祖母のために
「縁側」を造ってあげよう。

リフォームしてあげよう。

そんな気持ちが少しずつ
私の心の中で育って行った。

しかし
リフォームには
大変なお金がかかる。

だから気持ちだけ膨らんで、
何も出来ない年月が流れ、
その分、
祖母は
外出しなくなっていった。


そんな折、
近所のお宅がリフォームした。
ここのお宅のご主人は
寝たきりと訊いてはいたが、
介護施設と病院のたらい回しで、
在宅で
終のときを過ごしたい、と
ご本人の意思もあり、

家族たち、
奥様、息子夫婦が
二世帯住宅を
全てバリアフリーに改築したそうだ。

率直な最初の感想はお金があるなぁ、だった。


あるとき、
スーパー帰り、
このご近所のお嫁さんになる方と
ご一緒になった。

活発な方で、
誘われるまま
スーパーの端っこにあるお茶コーナーで、
二人で珈琲を飲んでいた。

若奥様は言う。

『私たちが大金持ちだって、
 近所で言われているそうね。』

私は
彼女の笑顔を観て、
ここで嘘をつくのは適当ではないと感じ、

『そうですね。
 あんな大改築されたんですもの、
 皆さん、そうお思いだと思いますよ。』


率直な気持ちを伝えた。

それが
彼女には意外だったのだろうか。

『実は、
 工費はデザイン料も入れて、
 150万銭だったんです。』

『ええっ!
 総バリアフリーだから、
 数千銭はしたのかと思っていました。』

『そうでしょうね。
 実は、
 猿回鳶巣家さんという建築家に依頼したの。』

『猿回鳶巣家さん?ですか・・・御親類か何か?』

『否、
 すぐそこで、デザイン事務所をされています。
 彼は
 廃材や、地元の資材を使いまわして、
 かなりのローコストでバリアフリーに改築して下さるんです。』

『知りませんでした。
 そんな人がいるなんて。』

『ええ、私も。
 お義母さんから教えてもらって
 ご相談したんです。
 お逢いして、お話しすると
 とても誠実な方で、
 何処から材料を取るか?
 どこをリユースするか?など、
 色々とアイデアを下さいました。
 なので、
 茶箪笥が堅牢な突っ張りになっていたりするんです。
 だから、
 お金がかからなかったの。』

『まるで赤ひげみたいですね。』

『あはは。そうですね。』





そんなわけで、
私は
おそるおそる猿回鳶巣家事務所の扉を潜った。

そして事情を伝える。
ただ、
私には予算などほとんどない。


『一度、ご自宅を拝見させて頂いていいですか。
 もちろん、
 出張費など取りません。
 ご依頼を受けられるか、
 私も現地を観ないと判りませんから。』


そういうと、
猿回さんは爽やかに笑った。

年齢不詳の若々しい巻き毛の男性だった。


猿回さんが祖母の旧家を観て、

『これなら、
 簡単に色々とできます。
 魔法使いじゃないから時間はかかるけれど。
 それと
 これは僕の提案なのですが、
 ご祖母様に、
 日向ぼっこできるスペースを造りませんか?』

『そんなことができるのですか!
 願ってもないことです。
 でも工賃が・・・』

『否、
 バーターという仕入れ方がありまして、
 材料をセット販売でこちらも買うのです。
 でもどちらも必要だから、
 売り手は売りたいし、
 買い手、この場合、私ですが、
 買いたいので、不利な取引になりません。』



そして
祖母の部屋に

「あごのせ台」が完成した。

夢想家 963 ky ネズラー通信(C) 山本京嗣



なんと
185厘だ(時価)。

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祖母は毎朝、
そこであごを乗せ、
日光浴をしている。

夢想家 963-1 ky ネズラー通信(C)




その姿を見るのが、
とても嬉しいのだ。