東日本大震災による液状化被害が首都圏で最も
顕著だった千葉県の東京湾岸部。あちこちで民家
の傾きを修復する工事が進む一方、宅地全体を
対象とした抜本的な地盤強化策の見通しは立た
ず、本格的な補修を先送りしている被災者も多い。
11日で震災から9カ月。浦安市などでは転出者
が相次いで人口減に陥るなど、深刻な影響が続
いている。
■高額な工事負担
市域の8割以上が液状化した浦安市。戸建て住
宅が建ち並ぶ地域では、工事の関係車両が家の
前に並び、新潟や鳥取など県外ナンバーも目に
つく。業者間の競争も激しく、工事用の薬剤が
下水に流れて管が詰まるなどのトラブルも起き
ている。
震災後しばらくは「傾きの修復は500万円、地
盤改良まで含めると1000万円」といわれた工事
費用は、競争の結果か低下傾向。しかし、「家の
ドアが自然に開いてしまう」とぼやく主婦(64)は
「どの業者も他社の工法を批判するばかりで結
局どれがいいのか分からない」と困惑顔だ。
家が傾いたままの無職の男性(71)は「待ってい
る間に工事の質が上がり、安い工法も出てくるか
も」と様子見を決め込む。同市によると、県や市の
住宅再建支援制度を申請した世帯数は11月末
現在、県分が対象の4・1%、市分も5・5%にと
どまる。
■噴砂で防潮堤
液状化で噴出した土砂は、浦安市だけで約75000
立方メートルに達し、処理も難題だ。
同市は海岸沿いに、噴砂やがれきを混ぜた盛り土
に植林して防潮堤を造ることで処理する計画を検
討している。同市は「海に面した部分を可能な限り
囲みたい」と防災都市を目指す構え。18日には
試験的な植林の取り組みも行うが、費用の捻出な
ど課題も多く完成のめどが立っているわけではな
い.。千葉県によると、同市の人口は4月に300人
減など9月まで3ケタ減が続き、10月末現在では
昨年末より1145人減った。
■戸建てにこだわり
液状化で約4000世帯が一部損壊以上の被害を
受けた習志野市では、復興計画を巡って住民の
合意形成が難航している。
同市主導の復興検討会議でまとまった復興案は
戸建て住宅をマンションに集約する案や、区画整理
と地盤改良した土地に戸建てを建て替える案など
4案あるが、いずれも住民の負担が必要だ。11月
の説明会では住民から「いったいいくら負担する
のか」など疑問の声が相次いだ。被災した世帯主
の5割以上が住宅ローンや教育費の負担を抱える
40歳代以上で、年金暮らしも多い。住み慣れた家
や戸建てへのこだわりも強く、「復興案は絵に描い
た餅」と話す住民も少なくない。市の担当者は「市民
の要望に応えたいのだが……」と頭を抱える。
■遅れる空洞修復
道路にできた空洞の修復もこれからだ。習志野市
が市内の埋め立て地の3分の1を調査した結果陥没
などの危険のある場所が約200カ所見つかった。
同市は「事故が起きてからでは遅い」として来年3月
末までに修復する方針。浦安市でも、確認されただ
けで約100カ所で空洞の存在が疑われている。同市
の担当者は「道路の凹凸などの苦情対応に日々追
われ、本格的な復旧はまだまだ」とため息交じりに
話す。
毎日新聞 2011年12月10日 東京夕刊