開業時の手持ちは退職金の230万円のみ
本章はおもに私の体験です。「オレはスゴイぜ」という自慢話でもなく、「こんなに苦労した」というお涙頂戴ストーリーでもなく、出来の悪い自虐ギャグでもなく、「私の場合はこうだった」という単純なドキュメンタリーです。いま振り返ると、「もっと早く融資を受けていれば」と思うことが多くありました。本章を読んで、「手元に資金があるということが、どれほど日々の活動を自由にするか、どれほど未来への展望が描きやすいか」という、経済面&心理面にもたらす大きな余裕を感じていただければと思いながら書いています。
あなたは士業としての独立にあたり、それなりの準備はなさったか、あるいは今ちょうど準備しているところだと思います。「独立前に資格取得」「少しは経験を積んだ」「ある程度の見込み客を作ってから」「半年は仕事がなくても大丈夫なほどの手元資金を」etc…。
私の場合は、勤めていた金融機関の破綻が独立のきっかけです。午前に顧客から預金を預かり、支店に戻って証書を作り、午後にお持ちしようと思いながら職員食堂で昼食を取っていたとき、そこで流れていたテレビニュースで自分の会社が破綻したことを知りました。その後は、預金者に(当時の法律で)預金が全額保護対象であることを、融資案件がストップしてしまった先に政府のセーフティネット利用法を説明するだけで手一杯。会社を辞めることは早々に決めたものの、来る日も来る日も残務処理です。経営コンサルタントとして独立・事業運営していくための資格も、人脈も、もちろん経験・実績も、何の準備もできず会社を離れた2002年、私にあったのは退職金の230万円のみでした。
それから経営コンサルタントとして「食える」ようになるまで2年9ヵ月かかりました。その約3年間を、退職金の230万円だけでつないでいたのでは、もちろんありません。コンサルタント業を細々と営んでいたものの、事業を一気に好転させたきっかけは国民生活金融公庫(現在の日本政策金融公庫)からの融資。お金を「借りて」、「使って」、借りた以上のリターンを得ればいいという効率の良さを、私は身をもって知ったのです。本章は私の個人的な失敗話ですが、第2章以降では友人や私自身の成功事例を詳しく説明します。両者の差を知れば、「使うべきときは使う」効果の大きさをご理解いただけるでしょう。