1999年12月11日(土)

 

朝7時30分くらいに目がさめたが、その後ベッドで惰眠をむさぼる。

 

8時くらいにベッドを出て朝食に行った。

朝食はおぼんを取って出されるものを受けとっていく仕組みになっている。メニューは、お粥、ショウロンポウ、マフィン、ハム、フルーツ、コーヒーと結構豪華な内容だった。

 

配膳は昨日のバーにいた金(キン)さんと王(ワン)さんだったので軽く挨拶を交わした。

重留さんは僕が寝ている間に食べていたので、僕一人の朝食だ。

 

海の見える窓側の席に座りゆったりとした時間を過ごした。

今日は、低気圧のせいか風が強く船がゆれ重留さんや他の人たちもほとんど船酔いでダウンしていた。僕も、多少の気持ち悪さはあったが、酔うまでは行かなかった。酔うという体験をしたことがないのでみんなの辛さはわからないが、本当に辛そうなのは確かだ。 

 

外は風が強かったが、僕はギターを持ってデッキへ行くことにした。

この旅にギターを持っていくかどうかは、最後の日まで悩んだ。

身軽に行きたいと思いつつも、ギターがちょうど面白くなり始めていた時期なので、半年も弾けないとなると、旅先で急に寂しくなりそうな気がして後悔すると思った。そして、ギターを通じて他の人たちと触れ合うことができれば、それはそれですばらしいことだ。散々迷った挙句、結局持っていくことにしたのだ。

 

 

やはり、一度船の上で歌っておきたかったのだ。

デッキには誰も居なかったので、海に向かって思い切り歌うことができた。

今まで、あんなに思い切り歌える環境はなかったのではじめて全開で歌ったような気がする。寒かったが昼飯の時間まで歌いつづけた。

 

今日は、何を隠そう僕の24回目の誕生日である。

そんな、僕にとって貴重な日も、船長の粋な計らいで思いで深いものになった。

 

夕方、僕がお風呂に行こうとしてフロアーに出たとき、突然船長に呼び止められたのだ。

 

「すいません、今日はあなたの誕生日ですね、

今日何時頃、食堂にいらっしゃることできますか?」

 

軽い中国なまりの日本語である。

 

「えっ、どうして知ってるんですか?」

 

僕が驚きを隠せず、聞き返した。

「船長は皆さんのこと何でも知っています、 中国では誕生日に長いおそばを食べます、長寿の意味です、だから今日食堂に来てくだちゃい。何時にいらっしゃる?」

 

「じゃあ、6時に行きます。」

「6時ですね、待ってます。」

 

僕は思いがけないハプニングに心から「謝謝」といって、風呂のある3階へ駆け上がった。

約束の6時、僕は緊張の面持ちで食堂へ向かった。

食堂に入ると、船長と、金さん、もうひとりの中国人女性の添乗員が待っていてくれた。

 

誘われるままにテーブルに座ると、早速船長からバースデーカードを戴いた。

その場で開くとカードからハッピーバースデーの曲が流れ、カードには中国語で「生日愉快」と書かれていた。

 

僕は心から、「謝謝」といいお辞儀をすると、今度は、金さんが噂のそばを持ってきてくれた。僕の前のテーブルには、何度かすれ違ってはいたが、話すことはなっかった僕と同じ歳くらいの日本人青年がいて、彼がこっちを不思議そうに見ていたので、「一緒にどうですか?」とこちらのテーブルへ誘った。彼も喜んでこちらに来てくれた。

 

どんな長いそばが出てくるか想像がつかなかったが、出てきてみると、普通の中華そばだった。チンタオビールも出てきて僕は本当に幸せだった。

 

「上海は初めてですか?」

 

おもてなしが一段落したところで、目の前の彼に僕から切り出した。

話を聞いていみると、ほとんど僕と同じルートを通るらしいことがわかった。

上海の後は香港へ行き、そのあと陸路でラオスやベトナムを経由してバンコクへそして、インドのほうへ行くらしい。今まではアメリカのほうを旅していたらしく、アジアは今回はじめてということだった。歳は28歳、僕と同じくらいだと思ってたのでちょっと驚いた。彼はフリーターで金を貯めては旅に出ているらしい。

 

客は僕達以外誰も居なかった。

なぜか不思議に思ってたが、今日のこのひどい揺れでみんな、船酔いでダウンしているらしい。重留さんも夕食に誘ったが、船酔いで何ものどにとらないそうだ。食事を済ませ、お金を払おうとすると金さんが「あなたはサービス。」といってお金を受け取らなかった。

 

僕はもちろん、この好意に甘えた。

8時くらいから、食堂であった青年(名前を聞き忘れてしまった。)とバーへ行った。今日もまた客は居なく、僕と彼の二人だけだった。金さんと王さんは、僕が椅子に座ると、ハッピーバースデーと言ってくれた。昨日と同じくまた二人でカラオケを歌っていた。

 

歌が好きなんだなと思って感心していると、金さんが、「ギター、ギター」と言ってきた。

最初、聞き取れず何を言っているのか解らなかったがジェスチャーでギターと言っていることが解った。金さんは僕が船に乗り込む時にギターを持っているのを見ていたらしく、ギターを弾いて欲しいと言っているのだ。

 

僕は部屋からギターを持ってきてカラオケセットをアンプ代わりにして、何曲か歌った。

中国では、日本の歌が結構はやっているらしく、僕が歌った歌の中にも何曲か知っている歌があって、結構感動してくれた。

 

その日も、気づくと閉店まで歌っていた。お金を払い席を立とうとすると、金さんと王さんがなにやら紙を取り出して何かを書き始めた。

 

「Your song is veru good, Ihope to listen your song again.  thank you.」

 

僕はとてもうれしかった。

ギターを持ってきてよかったと心からそう思った。

バーを出た後、誰もいないロビーで28歳の青年としばらく雑談したりギターを弾いたりしていたが、気づいたらロビーのソファーの上で寝ていた。

 

 

昼飯           600円

夕食            フリー

飲み代          450円

カップラーメン      200円

計            1250円