「あなたのその妄想、叶えたくはありませんか?」
薄暗い路地裏でニヤリと微笑を浮かべる怪しげな男が、そんなことを言って名刺を渡してきた。
「あぁ、あの子もいいなぁ…あの子もかなり…。なんて、頭の中だけで『いいこと』するだけで、満足なんですか?」
男は俺の意見も聞かずに契約書を渡してきた。
『妄想税の支払い』
「あの子でいい、だなんて…なんて哀れな人生なのでしょうか」
大袈裟にうなだれた男は、再びニヤリと笑い「納めましょう?妄想税」と言った。
…なんなんだ。
でも、この『妄想税』を納めるだけで叶うなら…。
「おや?納めていただけるのですか?
えぇ、『叶えたい』を現実にできますよ。払わなければ未来は所詮妥協なのです…。
妄想税さえ納めていただければ、あなたのヤりたいことも殺りたいことも…
汚い妄想は、汚いお金で解決させましょう」
ニヤリと笑う男に、契約書を書き渡した。
「確かに受けとりました」
そういって、彼は立ち去っていった。
確かに、金額は高い。
それでも叶えたいものが叶うなら、安いものだ。
「ふざけんな!!騙してんじゃねぇよ!」
あの男にあってから一週間後、それは駅前の広場で起こった。
見るからに一文無しな男や、女子高生、サラリーマンまで。色々な人達がスーツを着た男に抗議を行っていた。
その男は、確かに一週間前に会った男だった。
「何を言ってるのでしょうか?貴方達」
「は?」
この前のようにニヤリと小さく笑ったあとに、男は高らかに笑った。
「金を払えば願いが叶う?バカだなぁ!そんなこと、在るわけねぇだろ!
全部Lie、大嘘だよ!!どうもありがとうございました、この紙切れは俺のものだ!!」
狂ったように笑う男は、いつの間に増えていた民衆の波に落ち、いつまでも高らかに笑い続けていた。
ピピッピピッ…
朝。
どうやら全て夢だったようだ。
そりゃそうだ、あんな良くできたことが起こるはずがない。
妄想税が本当にあるなら、自分で納めるのにな。
「その妄想、叶えたいって思わない?」